研究課題/領域番号 |
23K00214
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研究機関 | 福岡教育大学 |
研究代表者 |
橋本 エリ子 福岡教育大学, 教育学部, 教授 (60253366)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 近代イタリア歌曲 |
研究実績の概要 |
イタリア独自の歌曲の創造に大きな貢献を果たした作曲家オットリーノ・レスピーギ(Ottorino Respighi:1879-1936)を中心に、声楽作品の適切な歌唱法と指導法について、理論的な考察を行い、演奏を通じて、実践的な観点から検証を行った。令和5年度は、特にイタリア独自の歌曲の創造に大きな貢献を果たした作曲家であるオットリーノ・レスピーギ(Ottorino Respighi:1879-1936)を中心に研究を深めた。 イタリア歌曲を歌うには、演奏の土台となる呼吸法と発声法を体得し、イタリア語の発音、また作品の生まれた背景や作詞者や作曲者の思い、そして詩の理解と演奏解釈法、さらに表現法など様々な高度な学修が必要とされる。従って、それぞれの作品の歴史的背景、詩人と作曲家のその作品が書かれた当時の心理状態を分析した上で、演奏解釈を行うことにした。そして、レスピーギの性格や内面を探ることで、歌曲を全作品の中に位置づけ、社会情勢や詩人との関わり、歌手との結びつきについて本質的な考察を行った。イタリア語独自の“言葉の抑揚”そのものが音楽になっていることを気付くことで、レスピーギの歌曲が、詩の内容と密着した音楽的表現を第一とし、歌い流すことよりも「朗唱」を重視した“詩と音楽の融合”が見られることが解明できた。また、彼独自の作風と音楽的特性を詳細に分析することにより、レスピーギの声楽全作品における演奏法について研究を深めた。 レスピーギの作品を演奏する際には、詩行のリズムや言葉のアクセント、音節の長短、言葉の響きや韻律など、より美しいイタリア語の発音や響きについて、的確な指導が必要とされる。これらの点について、イタリア歌曲を学ぶ声楽の初心者に対して、そして指導者に対しても、新たな視点からの指導方法として活用することができるよう、指導メソッドの研究を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大学及び高等教育機関における声楽の歌唱指導に欠かせない近代イタリア歌曲の適切な指導メソッドを開発するために、「科学的根拠をを示しながら、声楽指導を行う指導法について、研究を進めた。声楽の教育の要である「身体という楽器をどのように訓練し、調整するのか」という学修者自身の知識と理解が一致し、学修者本人が理解し、気付き、感じて、深く体得することができる声楽指導法について研究を深めた。 令和5年度は、特に、レスピーギの全歌曲作品の分析(作曲家、詩人、歌詞の内容等の理解)を行うことにより、歌曲における作風の変遷について研究を行った。また、現在日本において手に入らない書籍及び楽譜などの資料収集と近代イタリア歌曲の作曲家の研究の為に、ローマのサンタ・チェチーリア音楽院及びサンタ・チェチーリア音楽院図書館(Biblioteca Accademia Nazionale di Santa Cecilia)、カサナテンセ図書館(Biblioteca Casanatense di Roma)、ローマ国立中央図書館(Biblioteca Nazionale Centorale Roma)、アレッツォのペトラルカの家(Casa di Petrarca)、ナポリのサン・ピエトロ・ア・マイエッラ音楽院図書館(Biblioteca Conservatorio di Musica San Pietro a Majella)に於いて、オットリーノ・レスピーギ、イルデブランド・ピッツェッティ等のイタリア近代歌曲作曲家に関する書籍、手稿譜、楽譜、DVD、CDなどの資料収集、及び詩人フランチェスコ・ペトラルカ、ガブリエーレ・ダンヌンツィオの資料収集と関連調査を行い、近代イタリア歌曲の実践的歌唱法の研究を深めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度は、歌曲作品の詩の内容を十分に理解し、詩の持つ詩想を深く洞察する研究を進め、より高い演奏技術を学生に身に付けさせることができる指導メソッドの開発を行うべく研究を進める。そして、科学的な根拠を示しながら声楽指導を行う指導メソッドを開発するために、発声器官や人体模型などを活用した指導法を実践し、近代イタリア歌曲を教材とした指導法を提案する。さらに、呼吸法と発声法、そしてイタリア語の発音の仕方、詩の理解と演奏解釈が一体となった指導メソッドを開発すべく研究を進めるつもりである。そして、指導メソッドを作成し、イタリア歌曲を学ぶ声楽の初心者に対して、知識としての深い理解を与え、かつ自然で豊かな表現をもって歌唱することができる指導メソッドの効果を検証する予定である。 また、レスピーギのオーケストラ付き声楽作品及びオペラ作品について楽曲分析を行い、レスピーギの近代イタリア歌曲創造のインスピレーションとなった詩との接点を検証する。また、ボローニャ大学ボローニャ国際音楽博物館・図書館(Museo internazionale e biblioteca della musica)において、レスピーギの未発表の作品における資料収集及びマイクロフィルム、スライド、写真など資料を閲覧し、ヴェネツィアのジョルジョ・チーニ財団(La Fondazione Giorgio Cini)の図書館、ビエンナーレ図書館、ウーゴ・アンド・オルガ・レヴィ財団(La Fondazione Ugo e Olga Levi)の図書館(La biblioteca Gianni Milner)において資料収集を行い、社会情勢や詩人との関わり、そして同時代の作曲家との交友などを含めて、彼の作品の内面を探ることで、より本質的なレスピーギ像を浮かび上がらせることができるよう研究を進めるつもりである。
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