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2023 年度 実施状況報告書

無辜の死を悼むジレンマの藝術的転回

研究課題

研究課題/領域番号 23K00237
研究機関大阪大学

研究代表者

中村 恭子  大阪大学, 中之島芸術センター, 准教授 (00725343)

研究分担者 郡司 幸夫  早稲田大学, 理工学術院, 教授 (40192570)
研究期間 (年度) 2023-04-01 – 2026-03-31
キーワード風景 / 肉体 / 湿地遺体 / 書き割り / 日本画 / 外部 / 天然知能 / 創造性
研究実績の概要

湿地遺体トーロンマンの発見地域を取材した。湿地遺体の信仰には、前縁・境界にまつわるアンチノミー脱色という創造様式を見出せる。これがどのように環境の中で発露し得るか、遺体が配置された風景のあり様を体験し、そこから見出した事象から作品として実装した。今年度は、その試みの一つとして、「風景の肉体」を検討した。これまで、日本の古画に見出した空間表現として書き割りの空間概念を以前より示してきた。こちら側と対応する単純な向こう側を示すのとは異なり、日本の古画は図形平面の山並みを描く。舞台背景装置の書き割りのように、表面のこちら側のみ世界を表し、裏はない。図形的であるが故に単純な向こう側ではない、全くの知覚世界外部として創造を参与させる。知覚世界のリアリティにおける境界でありながら、前縁を同時に配した概念構造を、身体という問題に転回させる試みが風景の肉体である。意識の至る所に身体が拡張する身体イメージは、延々と私という文脈の世界にとどめ、真に創造的に開かれた体とは言えない。むしろ、書き割りのように圧倒的に物質的で、動かしようのない世界の限界として境界となる「もの」としての肉体こそ、外部に賭けに出ることができる。そのような肉体として、古代の儀式で殺害された湿地遺体、すなわち王の遺体に見出した。王は、豊穣を願う儀式によって殺害され、女神に捧げるために神聖な湿地に配置され、風景化された肉体と言える。湿地遺体は境界としての肉体であり、同時に女神という前縁を召喚する。外部という抽象性を肉体に召喚するとき、書き割りの風景の肉体が参与する。風景でありながら風景でない、原風景ともいうべき肉体である。中村はこれを泥炭湿地の限界に生息する植物や王を示す棒人形などから着想を得て、物質としての肉体を絵画として実装した。郡司は、湿地探索の中で植物による「もの」化として外部召喚を試みたインスタレーションを行った。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

今年度は、北ヨーロッパの泥炭湿地のうち、トーロンマンという有名な湿地遺体が発見された発見地域でフィールドワークを行った。これまでは文献等から検討できる湿地遺体にまつわる創造の概念構造を検討していたが、フィールドワークにより、具体的に「風景」と「肉体」というテーマが発露したことは大きな成果であった。また、フィールドワークにより、湿地遺体と類似した儀式に用いられた道具と現地の特徴的な植生に共通点を見出し、そこから展開した作品制作に至ることができた。中村は「風景の肉体」のテーマのうち「湿地の王」として現地の植物にまつわる作品を描き完成させた。他に、現地で見た特徴的な水平面の蜘蛛の巣や灌木などをテーマにとった作品の構想もできており、制作を進めている。これらを合わせて3部作の大作として予定している。郡司は現地での探索そのものを「もの化」していき、それを植物を材にした空間構成によって示した。をこれらの作品成果は、複数の企画展覧会に招待され、公開した。展覧会では、それぞれの独自の制作過程や構想が、「肉体」として共通のテーマとして重なり、創造すなわち「肉体の召喚」として提示することができたことは、当初の計画以上に進展している。また、善光寺で開催された展覧会では1週間で約5000人もの来場者を得て、NHKなどのテレビや新聞で紹介され話題となった。また、本研究を複数の学会などでも発表した。計測自動制御学会では、理系研究の場でありながら、芸術実戦による身体と肉体にまつわる議論が評価された。

今後の研究の推進方策

今年度は、まずはフィールドワークによる調査からスタートし、湿地遺体という題材から、肉体召喚にまつわるテーマを炙り出すことができた。そして、それを作品として実装することができた。これについては、複数の展覧会や学会などで発表している。今後は論文として公開するためにすでに執筆を進めている。また、次年度には、別の北ヨーロッパ地域の風景に、新たな肉体にまつわる視点を検討している。泥炭湿地の多くが、現在は街に混在し、公園になるなどしている。風景化において、自然と人工が構成するアンチノミーの脱色の結果としてもたらされる肉体を構想していく予定である。

次年度使用額が生じた理由

本研究の代々の特色として、実践研究としての作品制作がある。今年度に制作した作品にかかる表装作業の遅れによって次年度使用額が生じた。長野の善光寺で展覧会を開催し、作品を表装途中で仮張りのまま展示した際、展示会場の空調調整ができなかったことで、乾燥による本紙へのトラブルが生じた。その対応のため、作業完了・納品が年度を跨ぐことになった。作品への表装完了は次年度を跨いだが、作品自体は完成しており、作品の構想・取材・制作から完成・成果の公開まで、研究の予定や進捗自体に遅れはない。

備考

本研究による芸術作品の成果を展覧会で開催・公開した。うち、(1)、(2)、(4)、(5)は招待・企画展、(3)は主催・企画展で、(1)、(3)は個展である。特に(2)は善光寺境内で展示し、1週間で5000人ほどの集客、また複数のメディア(NHKなどのテレビ、新聞)から取り上げられた。(2)のうち、西之門よしのや北蔵で開催したのが郡司の展示である。

  • 研究成果

    (31件)

すべて 2024 2023 その他

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (20件) (うち招待講演 2件) 図書 (2件) 備考 (5件)

  • [雑誌論文] 当事者性を実現する天然知能のアート2023

    • 著者名/発表者名
      郡司ペギオ幸夫、中村恭子
    • 雑誌名

      映像情報メディア学会誌

      巻: 5-77 ページ: 591-593

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Connection and disconnection of perception and memory: Deja vu, Bayesian and inverse Bayesian Inference2023

    • 著者名/発表者名
      Gunji, Y.P
    • 雑誌名

      In Bergson’s Scientific Metaphysics: Matter and Memory Today (Hirai, Y. ed.), Bloomsbury Pub

      巻: - ページ: -

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Feeling of hand deformation as a monkey's hand: an experiment on a visual body with discomfort and its algebraic analysis2023

    • 著者名/発表者名
      Ruijia Yang、Sakura Hirokazu、Gunji Yukio-Pegio
    • 雑誌名

      Frontiers in Neuroscience

      巻: 17 ページ: 0

    • DOI

      10.3389/fnins.2023.975597

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 抽象の亀裂に現れるリアル2023

    • 著者名/発表者名
      郡司ペギオ幸夫
    • 雑誌名

      ユリイカ3月臨時増刊号『92年目の谷川俊太郎』

      巻: 43 ページ: -

  • [学会発表] 湿地遺体の書き割り構造2023

    • 著者名/発表者名
      中村恭子、郡司ペギオ幸夫
    • 学会等名
      第24回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会(SI2023)
  • [学会発表] 風景の肉体(映像展示)2023

    • 著者名/発表者名
      中村恭子
    • 学会等名
      共創学会第7回年次大会:共創する時空、いま・ここOS/WS 企画セッション「アートの転回:「わたし」における世界の感じ方」
  • [学会発表] 風景の肉体2023

    • 著者名/発表者名
      中村恭子、郡司ペギオ幸夫
    • 学会等名
      共創学会第7回年次大会:共創する時空、いま・ここ
  • [学会発表] 書き割りの風景・肉体2023

    • 著者名/発表者名
      中村恭子
    • 学会等名
      民族藝術学会第168回研究例会
    • 招待講演
  • [学会発表] フーリエの無限小概念で考える共創2023

    • 著者名/発表者名
      中村恭子
    • 学会等名
      第18回共創学研究会「当事者としての共・創」
    • 招待講演
  • [学会発表] 風景の肉体:ボグボディ2023

    • 著者名/発表者名
      中村恭子
    • 学会等名
      共創学会第一回「共創する時空」研究会
  • [学会発表] 空白としての現在-メロンクリームソーダから-2023

    • 著者名/発表者名
      德山祐耀、中村恭子
    • 学会等名
      共創学会第7回年次大会:共創する時空、いま・ここ
  • [学会発表] 『不在』がもたらす創発2023

    • 著者名/発表者名
      郡司ぺギオ幸夫
    • 学会等名
      共創学会第17回「共創する時空」研究会. 日立シビックセンター
  • [学会発表] いかにして作家である「私」の当事者性は擁護されるか2023

    • 著者名/発表者名
      郡司ぺギオ幸夫
    • 学会等名
      共創学会第17回「当事者としての共・創」研究会
  • [学会発表] 起源問題における「不在」の意味2023

    • 著者名/発表者名
      郡司ぺギオ幸夫
    • 学会等名
      日本進化学会第25回大会シンポジウム
  • [学会発表] 自由エネルギー原理と量子論的認知科学の関係, そして笑い2023

    • 著者名/発表者名
      郡司ぺギオ幸夫
    • 学会等名
      第33回日本神経回路学会, 東京大学
  • [学会発表] 天然知能から適応・起源を考えるということ2023

    • 著者名/発表者名
      郡司ぺギオ幸夫
    • 学会等名
      第70回自律分散システム部門研究会
  • [学会発表] 「創造する・外部を受け入れる」という能動性について2023

    • 著者名/発表者名
      郡司ぺギオ幸夫
    • 学会等名
      第65回知謝塾
  • [学会発表] ※OS企画主催2023

    • 著者名/発表者名
      郡司ぺギオ幸夫
    • 学会等名
      共創学会・一般公開セッション「アートの転回:『わたし』における世界の感じ方」企画
  • [学会発表] 「不在」を作ることで媒介者を召喚する2023

    • 著者名/発表者名
      郡司ペギオ幸夫
    • 学会等名
      共創学会第7回年次大会
  • [学会発表] 「言葉にできないこと」を言葉にする-書く・読む・奏でる-2023

    • 著者名/発表者名
      江藤健太郎, 郡司ペギオ幸夫
    • 学会等名
      共創学会第7回年次大会
  • [学会発表] 和太鼓のリズムに出会う:和太鼓の鑑賞実験を通して2023

    • 著者名/発表者名
      野村翔琉,郡司ペギオ幸夫
    • 学会等名
      共創学会第7回年次大会
  • [学会発表] 「どうしても思い出せない」を実験的に作り出す2023

    • 著者名/発表者名
      遠藤瞭介,郡司ペギオ幸夫
    • 学会等名
      共創学会第7回年次大会
  • [学会発表] 空間認知の人称性と記憶の人称性の相関について-あやとりによる発見2023

    • 著者名/発表者名
      杜越, 郡司ペギオ幸夫
    • 学会等名
      共創学会第7回年次大会
  • [学会発表] 量子論理オートマトンにおける臨界性2023

    • 著者名/発表者名
      郡司ペギオ幸夫, 大澤慶彦, 江藤健太郎.
    • 学会等名
      第24回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会
  • [図書] 「フーリエの未来の肉体としての反古墳──いや、墓とは?」,『フーリエ論集(仮)』福島知己(編)2024

    • 著者名/発表者名
      中村恭子
    • 総ページ数
      -
    • 出版者
      水声社
  • [図書] 創造性はどこからやってくるか:天然表現の世界2023

    • 著者名/発表者名
      郡司ペギオ幸夫
    • 総ページ数
      288
    • 出版者
      ちくま新書
  • [備考] 中村恭子・郡司ペギオ幸夫展「BOG BODY:召喚される身体」、アートスペースキムラASK

    • URL

      arhchive ASK 2F+B2: https://youtu.be/l27Fd4Yg9EE

  • [備考] もんぜん千年祭、2024.2、信州善光寺本坊大勧進紫雲閣、西之門よしのや北蔵

    • URL

      archive: https://youtu.be/SSSyQtDORa8; panorama: https://youtu.be/a8MKnt0lCGc

  • [備考] 大阪大学中之島芸術センター開館記念中村恭子日本画作品展「風景の肉体」、大阪大学中之島芸術センター

    • URL

      archive-1: https://youtu.be/oAZkvvcT6oQ; archive-2: https://youtu.be/I2VfuPVHPgQ

  • [備考] 「第5回メタモルフォーシス展」、ギャラリー82

    • URL

      archive: https://youtu.be/nC7VfhhAD6A

  • [備考] Alife 2023:無意識的関係性展、2023、北海道大学クラーク会館

    • URL

      https://2023.alife.org/art-exhibition-unconscious-relationship/

URL: 

公開日: 2024-12-25  

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