研究課題/領域番号 |
23K00252
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所 |
研究代表者 |
濱村 美緒 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 飛鳥資料館, アソシエイトフェロー (70917749)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 絵画技法 / 塑像 / 彩色文化財 / 彩色復元 |
研究実績の概要 |
本研究は、飛鳥地域の遺跡から出土した塑像断片に残る彩色を主な対象とし、塑像に描かれた彩色を調査記録することで、奈良時代以降の彩色文化の源流となる飛鳥・白鳳期の絵画技法の解明を目指すものである。 初年度である2023年度は、本研究の対象資料である川原寺裏山遺跡から出土した大量の塑像断片・方形三尊磚仏・緑釉磚についての調査を行った。当該資料は、飛鳥時代に創建された川原寺に安置されていた大小さまざまな仏像の断片と考えられ、平安時代中ごろの火災で焼損した後、地中に埋め納められた資料である。そのため、火災の熱で色料が変退色し、本来の色彩が失われているほか、特に塑像断片は脆く崩れやすい状態である。また、当遺跡から出土した数千点を超える資料は、整理作業に多大な時間を要し、さらに複数の機関で分割保管されている状態である。したがって、彩色技法の研究など、特に美術的な観点からの調査研究は、あまり進んでいない状況といえる。そのため、まずは飛鳥資料館保管の出土品について、1)資料数や塑像断片に残る彩色の残存状況の調査、2)塑像の像種の判別および展示公開活動における図録の作成、3)彩色文様・胎土の科学的な分析調査を実施した。 1)では、塑像断片の保存状態の把握のほか、彩色の有無を網羅的に観察・記録し、強化処理や彩色調査の対象となる資料を選別した。 2)では、2023年度に展示企画業務を担う機会があったため、1)をもとに公開の機会が少ない資料の公開活用を試みた。業務にかかわる作業等が多く想定よりも時間を要したが、一般向けの図録を作成することで、資料の撮影記録や資料画像の公開、塑像断片の像種ごとの整理や他機関からの資料借用、これまでに実施した調査研究成果の公開が実現した。 3)では、彩色の専門家とともに塑像や磚仏の彩色や文様の痕跡を観察・検討したほか、可搬型蛍光X線分析装置で焼損した色料や胎土の分析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
調査対象の資料点数が多く、資料の状態把握などに想定以上の時間を要し、科学的な手法を取り入れた調査の開始が遅れたため。 また、展示公開業務にかかわる諸業務に時間を要し、当初予定していた他機関保管資料の調査・観察や国内の彩色文化財の視察等を実施できなかったため。
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今後の研究の推進方策 |
塑像資料を中心に引き続き科学的な手法を交えた彩色調査を実施する。初年度の調査では、蛍光X線分析を実施したが、調査結果との比較のために粘土を用いた色料テストピースなどの実験試料作成の必要性を感じた。そのため、今年度はテストピース等の試料を作成して分析データを蓄積し、調査結果との比較検討を行う。また、赤外線撮影等の手法も取り入れた調査を実施するほか、他機関で保管されている同遺跡出土資料や国内各地の彩色文化財の視察・調査を行い、情報収集を行う。 初年度の彩色調査および資料観察では、塑像表面に描かれる文様について、一部ではあるが用いられた文様モチーフや使用色料の傾向が明らかになった。今後は、引き続き対象資料の詳細な観察をおこなうほか、彩色復元に向けて文様の復元図案や白描図等を作成し、最終年度の彩色復元作業に向けた準備を進める。また、素材や絵画技法の解明を進めるため、塑像や古墳壁画を想定した粘土や漆喰への色料の塗布実験を行い、基底材となる素材や色料の特性への理解を深める。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の対象資料となる資料数が膨大であったため、資料の状態把握・整理に想定以上の時間を要し、かつ展示公開業務に関わる業務を優先したため、購入を予定していた機器の選定・購入が思うように進まなかった。また、参加した学会が奈良県内で開催されたため、旅費がかからず参加費のみの支払いとなった。 次年度は、調査データの記録・保存に必要な機器や、実験試料の作成に必要な機器および材料を購入する。特に試料作成においては、対象資料に状態を近づけるため、小型の焼成機器等の購入を検討している。また、国内を中心とした視察等で旅費の使用額も増加する予定である。
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