研究課題/領域番号 |
23K00256
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研究機関 | 福島県立医科大学 |
研究代表者 |
中川 恵子 (末永恵子) 福島県立医科大学, 総合科学教育研究センター, 講師 (10315658)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | ワクチン / 細菌戦 / 陸軍軍医学校 / 防疫給水部 |
研究実績の概要 |
本研究は、アジア・太平洋戦争期において発展したワクチン開発・生産体制は、戦中を経て戦後の予防接種法―予防接種を義務と規定していた―を下支えする基盤として引き継がれたとの仮説のもと、戦中と戦後の連続を非連続の詳細を明らかにすることを目的とする。 従来の研究では、戦後GHQによる衛生改革の革新性にのみ光があてられていたため、感染症対策における戦前と戦後の断絶感が強く、連続性については等閑視されてきた。そこで本研究は、ワクチンの開発・生産体制を戦時期にさかのぼり、実態を掘り起こして、その成立と展開の軌跡を跡付けるとともに、その動向がどのような形で戦後の前提となったのか、その連続性・非連続性について具体的に見極めつつ検証する。 本年度は、戦中期のワクチンの開発・生産体制の解明を制度・組織・人事の3方向からすすめるために、細菌学の研究雑誌・紀要(『実験医学雑誌』・『細菌学雑誌』・『陸軍軍医学校防疫研究報告第二部』等)、医学業界誌(『医海時報』『医事新報』等)から、関連論文・記事を抽出して、読解・分析し、論点を整理した。 中でも特に軍内で製造し・使用された軍用ワクチンについて分析を行った。軍用ワクチンは、開発がすすめられたが、1943年後半には輸送不能で戦地への供給が不足している。緊急需要がありインドネシアなどの現地ではワクチンの粗製乱造が起こっていた。したがって、兵士はワクチン接種後に注射跡の深刻な化膿や高熱といった副作用も多くを経験した。軍は、予防接種液の乾燥化や現地生産で潤沢な量の供給をめざしたが、そうしたワクチンの効力は疑問で、日本兵にも多数の患者発生した。戦争末期は戦地への補給も途絶した。さらに、激烈な副作用があったことも記録されている。しかし、ワクチンに関する情報や知見は積み上げられ、関係した研究人材は戦後に活躍したことも事実である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ワクチン開発製造を行った同仁会に関する資料を翻刻・解説して『外地「いのち」の資料集(六)同仁会』を執筆、また『外地「いのち」の資料集(七)満洲医科大学』も同じく翻刻・解説を行った。 また、戦時インドネシアでのワクチン事件を扱った倉沢愛子・松村高夫『ワクチン開発と戦争犯罪―インドネシア破傷風卯事件の真相』岩波書店を『「マルタ」と「ロームシャ」の叫びを聴く』と題して書評を担当し、戦時のワクチン製造に関する問題点について意見交換を行った(慶應義塾経済学会)。 また、ワクチンと細菌戦の関係について「仏教者 佐藤大雄と細菌戦」と題して戦争と医学医療研究会第52回研究会で報告を行った。 資料調査は思うようにできていないが、今後時間を作って取り組みたいと思う。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、資料所蔵機関(国立国会図書館、国立公文書館、防衛省防衛研究所史料閲覧室、東京大学附属図書館医学分館、東京大学文書館)の一次資料の調査を行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に行った学会発表のための出張で見積もった出張費より少し安く済んだため。
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