研究課題/領域番号 |
23K00287
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研究機関 | 神戸女子大学 |
研究代表者 |
長田 あかね 神戸女子大学, 古典芸能研究センター, 研究員 (10574816)
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研究分担者 |
樹下 文隆 神戸女子大学, 文学部, 教授 (70195337)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 能扇 / 脇扇 / 狂言扇 / 中啓 / 鎮扇 / 仕舞扇 / 扇面画 |
研究実績の概要 |
当該年度は、初年度の「研究実施計画」の内容に沿って、以下の(1)~(5)の研究活動を実施した。さらに、初年度の「研究実施計画」に追加する形で、新たに以下の(6)(7)の研究活動を実施した。 (1)「塚本家所蔵扇下絵」の書誌調査の完遂。(2)上記(1)の書誌データと撮影済み画像データを結合した基礎データ作成の完遂。(3)「塚本家所蔵扇下絵」のうち能楽扇の扇面画の分析と分類の完遂。具体的には、まず扇下絵から能楽扇の扇面画335点を選り分け、さらに、それらの扇面画を中啓と鎮扇(仕舞扇)に区分し、中啓は翁扇・神扇・尉扇・修羅扇・鬘扇・老女扇・男扇・山伏扇・童子扇・乱扇・鬼扇・山姥扇・脇扇・狂言扇の役柄別、鎮扇(仕舞扇)は観世流・宝生流・金春流・金剛流・喜多流・福王流・流派未詳の流派別に分類した。(4)能楽扇の研究に関連する資料の収集。当該年度は、先行研究の論文や雑誌記事、過去の博物館・美術館などの展示図録、能楽扇関係の書籍などの文献資料を収集した。(5)「塚本所蔵扇下絵」の目録の作成。具体的には上記(1)(2)を元に、「塚本所蔵扇下絵」のうち能楽扇を含めた約130点分の目録を作成し、連載中の研究誌に掲載した。 (6)上記(3)で分析・分類した能楽扇の扇面画335点の図録集の刊行。(7)「塚本家所蔵扇下絵」から選んだ能楽扇5点の扇面画の復元。江戸時代の能楽扇の扇面画に用いられたデザイン・技法を、なるべく具体的に検証・解明することを目的に行った。 以上の研究活動の成果により、本プロジェクトの目標である、近世における能・狂言扇図案の歴史的変遷を中心とした具体的かつ実態的な解明と、「塚本家所蔵扇下絵」の全貌の公開に向け、研究対象となる資料の基盤作りをほぼ達成できたと考えている。併せて、上記(7)により、江戸時代の能楽扇の扇面画について、デザイン・技法面での実態解明も進める事ができたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度は、「研究実績の概要」に記載した通り、初年度の「研究実施計画」の内容に沿って、以下の(1)~(5)の研究活動を実施した。さらに、初年度の「研究実施計画」に追加する形で、新たに以下の(6)(7)の研究活動を実施した。 (1)「塚本家所蔵扇下絵」の書誌調査の完遂。(2)上記(1)の書誌データと撮影済み画像データを結合した基礎データ作成の完遂。(3)「塚本家所蔵扇下絵」のうち能楽扇の扇面画の分析と分類の完遂。(4)能楽扇の研究に関連する資料の収集。(5)「塚本所蔵扇下絵」の目録の作成。(6)上記(3)で分析・分類した能楽扇の扇面画335点の図録集の刊行。(7)「塚本家所蔵扇下絵」から選んだ能楽扇5点の扇面画の復元。 まず、以上のうち(1)~(5)の研究活動は、初年度の「研究実施計画」に沿ったものであり、上記の実施状況から初年度の「研究実施計画」は、充分に達成できたと評価できる。 さらに、初年度の「研究実施計画」にはない上記(6)の研究活動を実施した事で、今後の研究活動の基盤となる重要な主要資料を、基礎的な調査・分析・分類を終えた状態で利用する事を可能とし、同時に本プロジェクトの最終目標の一つである「塚本家所蔵扇下絵」のうち能楽扇の扇面画の全貌を公開する事も実現した。また、同じく初年度の「研究実施計画」にはなかった上記(7)の研究活動では、江戸時代の能楽扇の扇面画の実態について、デザイン・技法面から検証する事ができた。よって、初年度の研究活動の進捗状況に関する総合的な評価は、「当初の計画以上に進捗している」が妥当と考える。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度の研究成果を元に、今後は、「塚本家所蔵能扇下絵」のうち能楽扇の扇面画の検証・考察を中心に、以下の研究活動を2年間にわたって行う。なお、以下のうち(7)~(11)は、最終年度に実施する計画である。 (1)能楽扇の扇面画図案の素材となった絵画や古典文学などの探索と、図案形成への影響に関する検証・考察。(2)能楽扇の扇面画図案が固定化するまでの歴史的変遷に関する検証・考察。(3)能楽扇の扇面画図案の役柄・流義ごとのルール確定に関する検証・考察。(4)能楽扇の扇面画図案と、能・狂言の演出的影響の検証・考察。(5)近世の能・狂言扇制作システムと絵師・購買者との関係につい ての検証・考察。(6)能・狂言扇関係資料の追加調査と収集。 (7)これまでの研究成果に基づく、「塚本家所蔵扇下絵」を中心とした、能楽扇の扇面画図案の分類と体系化の再検討。(8)近世期の能楽言扇をテーマとしたシンポジウムの開催。(9)上記(8)と連動した、神戸女子大学古典芸能研究センター内の展示室における企画展示の開催。(10)成果報告として作成した目録の研究誌などへの公開。(11)これまでの研究成果を元とした論文資料集刊行準備と「塚本家所蔵扇下絵」のデータベース公開準備。 以上の項目のうち、当初の研究実施計画では、(11)の論文資料集は、最終年度に計画している(8)(9)の研究成果を元に作成する事を予定していたが、本プロジェクトの全活動期間中に得られたすべての研究成果から、公開にふさわしい内容を盛り込む形に変更する。また、上記(10)は、当初の研究実施計画では、最終年度に「塚本家所蔵能扇下絵」の全目録の掲載を終了する予定であったが、誌面の掲載可能ページ数の規定等から、本プロジェクトの活動期間が終了した後も連載を継続する事にする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、これまでに公刊された文献資料の収集が中心となり、近畿圏以外の研究機関等において関連資料の調査・収集を実施しなかったため、比較的高額な旅費が発生しなかった。また、資料の基礎データの作成に参加した研究協力者への謝金が予想を下回った。そのため次年度助成額が生じたが、次年度は上記の近畿圏以外への資料調査・収集を積極的に実施する予定であり、かつ新たに参加する研究協力者とともに研究会等を複数回開催する予定である。次年度へ繰り越した助成金は、次年度分と合わせて、そうした研究活動を中心に使用する計画である。
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