本研究の目的は、田中文庫書簡集の解読調査を実施し、近世会津俳人来翰集を編集することにより、書簡による広い交流を果たしていた近世文化を実証的に解明することである。 3年計画の初年度にあたる令和5年度は、田中文庫が所蔵している俳人書簡数百通を撮影し、写真データを整理した。巻紙の状態で保存されている全書簡を一通一通開いてデジタルカメラで撮影し、パソコンを用いて差出人毎に書簡写真のデータを整理することにより、来翰集の全容を大まかにつかむことができた。田中文庫は近世後期の会津俳人田中月歩(草蘿)、成羅父子宛のものがほとんどである。差出人には大坂の長斎、甲斐の可都里、江戸の成美、芝山、行脚俳人の瓜坊、仙台の士由、出羽の淋山といった各地の著名俳人がおり、その交流の広さが窺える。また、地元陸奥の冥々、恒丸、与人、如髪、掬明らの書簡も多数確認されており、これらを解読することによって俳人たちの文化交流の実態を解明できそうである。 令和5年度の研究成果としては、上記のうち出羽の俳僧淋山の書簡に着目した論文『出羽の俳僧鹿苑舎淋山』(群馬県立女子大学紀要第四十五号 令和六年二月)を発表した。本論文では、淋山から月歩に宛てた書簡十三通と国村書簡一通を翻刻し、関連俳書を調査することにより、当時の俳僧の活動実態を考察した。また、それ以外の書簡についても翻刻、解読調査を進めており、交流の実態、関連俳書等の調査を継続している。 次年度以降は引き続き田中文庫書簡集の解読調査を進めていき、現在注目している仙台の士由書簡を中心に調査した内容を論文にまとめたいと考えている。また、最終年の目標である近世会津俳人来翰集の編集に向けて、計画的に研究を進めていきたいと考えている。
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