研究課題/領域番号 |
23K00300
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研究機関 | 和洋女子大学 |
研究代表者 |
小堀 洋平 和洋女子大学, 人文学部, 准教授 (30706643)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 田山花袋 / 自然主義 / 宮本百合子 / プロレタリア文学 |
研究実績の概要 |
プロレタリア文学の代表的作家宮本(中条)百合子が、自然主義作家田山花袋をいかに批判的に継承したかという問題に取り組み、以下の2編の論文を発表した。第一に、「宮本百合子「貧しき人々の群」と田山花袋『重右衛門の最後』―― 二つの上昇期における全体性への志向 ――」(『和洋女子大学紀要』2024年3月)では、「貧しき人々の群」が全体性への志向を上昇期の自然主義文学の代表作『重右衛門の最後』から継承しつつも、全体性をそのテクストの内部において到達されたものとしては語らず、それを開かれた課題として残したところに、初期プロレタリア文学としての特質をもつことを指摘した。第二に、「田山花袋の宮本百合子評価の諸特性――「心の河」評を中心に――」(『和洋国文研究』2024年3月)では、毀誉褒貶の相半ばした百合子の小説「心の河」に対する花袋の批評の特性として、同作における「両性問題」と社会変革への志向を結びつけて解釈した点を指摘し、それが後の百合子のプロレタリア文学陣営への参入をいちはやく示唆したものであることを論じた。 また、花袋に関する研究として、以下の成果がある。論文「失われた自由、壊された形式――田山花袋「罠」とその反響についての試論――」(『花袋研究学会々誌』2023年6月)では、花袋の小説「罠」における疎外の諸相を、石川啄木をはじめとする同時代評を手がかりに分析し、語り手の「本能」による疎外状況の解釈が、本作における小説形式の解体をもたらしていることを論じた。口頭発表「「蒲団」のなかのファウスト――ファウスト主題の流通と変容のなかで――」(日本近代文学会、2023年6月25日)では、「蒲団」におけるファウスト主題の受容について、作中で言及されるツルゲーネフ「『ファウスト』」およびモーパッサン『死の如く強し』(グノーのオペラ『ファウスト』が登場する)との関係から考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
花袋から「貧しき人々の群」をはじめとする初期宮本百合子への継承関係を検討するという当初の計画を、おおむね順調に達成することができた。この問題に関して、「宮本百合子「貧しき人々の群」と田山花袋『重右衛門の最後』―― 二つの上昇期における全体性への志向 ――」(『和洋女子大学紀要』2024年3月)と「田山花袋の宮本百合子評価の諸特性――「心の河」評を中心に――」(『和洋国文研究』2024年3月)の論文2編を発表したほか、自然主義隆盛期の花袋に関しても、論文「失われた自由、壊された形式――田山花袋「罠」とその反響についての試論――」(『花袋研究学会々誌』2023年6月)を発表し、口頭発表「「蒲団」のなかのファウスト――ファウスト主題の流通と変容のなかで――」(日本近代文学会、2023年6月25日)を行うことができた。また、次年度に向けて、『一兵卒の銃殺』の創作過程に関する資料を収集してその整理に着手しており、今後の研究に向けての準備も順調に進捗していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後、2024年度には、戦争をテーマとした作品を採り上げて、自然主義からプロレタリア文学への展開を跡づける計画である。特に国内の兵営を舞台とした作品に焦点を絞り、花袋『一兵卒の銃殺』と細田民樹『或兵卒の記録』を論じる予定である。なお、両作品のあいだにある継承関係の検討に際しては、『一兵卒の銃殺』がゴンクールの影響を受け、『或兵卒の記録』がトルストイの影響を受けていると考えられるところから、比較文学的方法も補助的に用いることになろう。 ここで特記すべきは、『一兵卒の銃殺』の創作過程をうかがわせる新出資料が発掘されたことである。花袋から『国民新聞』学芸主任の島田青峰への一連の書簡がそれであり、この資料については、「田山花袋『一兵卒の銃殺』の創作過程――島田青峰宛書簡の検討から――」と題して、6月開催の和洋女子大学日本文学文化学会で発表予定である。書下ろし単行本として刊行された『一兵卒の銃殺』について、花袋が当初『国民新聞』への連載の意図をもっていたことは、花袋の回想をとおして従来知られていたが、本資料はその連載中止の経緯を具体的に示すものとして貴重である。これについては、上記の口頭発表後に論文化し、年度内の発表を目指したい。 なお、『一兵卒の銃殺』と同時期の花袋の代表作『時は過ぎゆく』を対象とする作品論を執筆済みであり、2025年3月刊行予定の論文集『明日へ翔ぶ――人文社会学の新視点――8』に発表予定である。『時は過ぎゆく』については、他にその間テクスト性に注目した論考も準備中であり、やはり年度内に学会誌に掲載する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究実施の過程で、研究計画の立案時よりもオンライン・データベースの拡充があり、調査のための旅費の支出が抑制されたため、残額が生じた。これについては、次年度に田山花袋関連資料の購入に充てる計画である。
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