研究課題/領域番号 |
23K00323
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研究機関 | 共立女子大学 |
研究代表者 |
遠藤 耕太郎 共立女子大学, 文芸学部, 教授 (50514113)
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研究分担者 |
富田 美智江 流通経済大学, 法学部, 准教授 (40615952)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 踏歌 / 歌垣 / 挽歌 / 哭き歌 / 喪葬 |
研究実績の概要 |
本課題の第一の目的は、『古事記』や『万葉集』以前の呪性に則った喪葬歌を、東アジア喪葬文化圏という枠組みで体系化するところにある。古代中国の喪葬儀礼を記す『儀礼』を始めとする文献資料には、具体的な歌は掲載されない。そのため本研究は現在までその痕跡が見られる周辺諸民族の喪葬に関わる歌表現を集積し、体系化しようとしている。 そこで、毎月一回開催している研究協力者を交えた勉強会で、それぞれの担当地域におけるこれまでの研究成果を発表してもらった。奄美・沖縄、さらに東シナ海には共通する祖型を持つような喪葬儀礼があることが見えてきた。また、韓国の哭き歌に関しても、長江流域少数民族のそれと類似する歌表現があることが見えてきた。また、『古事記』や『万葉集』の喪葬歌や挽歌に見られる人称転換や複数の視点でそれを描くことなど、共通する点も多いことが分かった。 一方で、中国少数民族の喪葬儀礼に関する文献を読み進めた。喪葬と出産は循環する魂の出入口であるから、1セットとして扱い、翻訳した。また、唐宋代の長江流域では、喪葬儀礼に踏歌がかなり頻繁に行なわれていることが分かってきた。むろん踏歌は男女が手を取り大地を踏み、からかいの恋歌を掛け合う遊びでもあるのだが、古代日本ではそれが喪葬儀礼でも行なわれた。そういう状況が唐宋代の長江流域に広がっていたことが分かってきたことは大きな収穫であった。 また、シンポジウム形式でシャーマンの神懸かりについて、モソ人とイ族、その他の発表の機会を得た。その際、喪葬儀礼において神がかるシャーマンと神がからないシャーマンをどう捉えるのかが話題となり、そこに国家がかかわっているのか、それとも両者は併存しており、神懸かりの表現が違うのか、あるいは制御の仕方が違うのかについての意見が交わされた。呪性に則った喪葬歌を体系化する際の重要なポイントとなると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の特徴は、文献資料に残されていない古代中国の喪葬儀礼における歌表現を、周辺諸民族のそれを体系化する中で浮かび上がらせようという点にあるので、当然その中心は、毎年予定している現地調査ということになる。今年度は雲南省ジンポー族の喪葬儀礼調査を行う計画だった。しかし、特に喪葬儀礼はシャーマンに関わる部分が多く、現在の中国国家政策の中で、現地調査は不可能であると判断せざるをえなかった。 そこで本年度は、これまで調査をしてきたモソ人、イ族をはじめとする雲南省少数民族の喪葬儀礼やそこで歌われる歌を資料化し、新たに出産儀礼とセットにしながら文献資料を翻訳した。その中から長江流域における喪葬儀礼と男女の歌遊びにおける踏歌との関連や、神がかるシャーマンとそうでないシャーマンのあり方の違いなど、今後展開できる課題が見えたことは収穫である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の中国国家政策のあり方とも関連するが、短期間中国を訪れ、現地でシャーマニズムに関わるような調査は極力さけ、現地研究者との連携を深める必要があり、最終年度には日本で国際シンポジウムなどが開催できればよいと考えている。その際、踏歌が唐宋代の長江流域では盛んに行なわれており、それが男女の歌の楽しみだけではなく、喪葬儀礼にも行なわれていたという点は、かなり重要で、踏歌全般を含めた体系化が必要になると思われる。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在の中国情勢を勘案し、シャーマニズムに触れる恐れのある喪葬儀礼研究を現地で行なうことを断念したため。長江流域の少数民族居住地域で踏歌を中心とする現地調査を行い、同時に現地研究者との連携を強めるために、中国渡航を計画している。
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