研究課題/領域番号 |
23K00337
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
大平 幸代 奈良女子大学, 人文科学系, 教授 (90351725)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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キーワード | 世説新語 / 王敦 / 桓温 / 荊州 / 説話 |
研究実績の概要 |
2023年度は、主に、『世説新語』の逸話のもととなった語りの背景を探るため、王敦をめぐる話がどのような集団によって形成されてきたのかを、「豪爽」篇を中心に考察し、論文「「田舎」武将の王敦を語る人々―『世説新語』豪爽篇と荊州桓氏幕下の僚属たち―」として公表した。 そもそも、『世説新語』の人物評価は、国史とは指標が異なる。『晋書』では、東晋の王敦や桓温のように王朝を脅かすほどの力を蓄えた人物は、逆賊として、列伝の最後尾、載記の前に置かれる。それに対し、『世説新語』豪爽篇は、王敦ら「田舎」武将の豪胆で爽直な言動を評価し、旧幕僚に敬慕されつづける人物として好意的に記す。また、『世説新語』の評価は多面にわたり、相反する言動を対比的に示すこともある。例えば、豪直な失敗者か、狡賢い成功者かという点においては、「豪爽」と「仮譎」が対をなす。「仮譎」を代表するのは、魏の曹操であり、東晋の謝安もその列に連なる。また、同じく奔放な言動を記しても、王敦のような田舎武将の「豪爽」と謝尚のような風流貴族の「任誕」が対照的に描かれる。 多様な評価指標が混在するのは、『世説』の逸話の背景に、階層や出身地を異にする集団がからみあい、それぞれを支持する人々が実体として存在し続けていたからであろう。本論文で注目したのは、その集団の一つとしての、荊州の桓氏の幕僚たちである。荊州では、王敦以来の土着の武人の一族が、桓温、桓沖、桓玄ら桓氏軍団の下におり、都から来た風流貴族文人と時に摩擦を起こしながら交流していた。風流文人との対比の中で描かれる武人の像には、いくつかの特徴があり、日ごろから軍服を身に着けて狩りに出かけ、宴席では諧謔的な応酬をする。そうした桓氏幕下の武人社会で偶像的に支持されていたのが王敦であり、その集団的語り(記憶)の断片が、『世説』に留められているのだと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
『世説新語』にみえる地域性や階層による特性については、論文として公表することができた。謝氏や王氏といった名族に対する評価から『世説新語』編纂者を推定する卓論はすでにあるが、編纂以前の語りの空間(説話形成の場)についてはこれまでさほど注目されていない。一方、歴史研究では、荊州の桓氏軍団の性質について明らかにされているが、その集団と書物編纂や言語表象との関わりについては、深く論じられてこなかった。本論は、こうした不足を補い、『世説新語』研究に新たな視点を与えようとしたものである。 なお、本年度は、西晋末から東晋にかけての人の移動と説話との関係についても考察を進めたが、これについては、改稿のうえ、次年度以降に公表する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き『世説新語』『語林』などから、歴史故事の語られ方・記され方について考察する。また、各種『晋書』など歴史書の書き手とその内容についても、分析を進める。もうひとつ注目したいのは、歴史の注釈と批評、とりわけ後漢末から西晋にかけての「歴史」を、東晋から劉宋の人がどのように語り、解釈したのか、その歴史理解が、当代の言語表現や書物編纂にどのような影響を与えたのかという問題である。次年度には、まず特定の歴史的人物に関する言説に焦点をあて、晋宋期の歴史語りの一端を明らかにすることを目指す。さらに、そうした時代形象や人物形象の当代(晋宋期)的受容が、言語表現の場にどのような反応を引き起こしたのかを探ってみたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた主な理由は、本年度末に予定していた国内学会への現地参加が、都合によりオンラインでの参加になったことによる。次年度は、パソコン購入を予定しているため、次年度使用額をその一部にあてる。
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