研究課題/領域番号 |
23K00369
|
研究機関 | 四国大学 |
研究代表者 |
阿部 曜子 四国大学, 文学部, 教授 (60294732)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | グレアム・グリーン / 冷戦 / メディア / イギリス文学 |
研究実績の概要 |
本研究はイギリス人作家グレアム・グリーンのメディアでの言説や文学作品における表象の在り方を「冷戦」という角度から捉えなおすものである。特に冷戦秩形成の変容期だったと思われる1960年以降の冷戦中・後期に光を当てることで、この時期のグリーンが中南米のいわゆる第三世界の国々を訪れ、綿密な取材を重ねては、新聞などのメディアに投稿した記事を分析し、さらにそれらの地を舞台に設定したフィクションを、冷戦コンテクストでの再読を試みるものである。当該年度は、1950年代よりグリーンが注目していたカリブ海諸国の中のハイチ共和国に焦点を当てた。 まず、ハイチにおける足跡を、Adamson, Judith. Graham Greene: The Dangerous Edge Where Art and Politics Meet (Palgrave, 1990) や最新の詳細な研究書であるGreene, Richard. The Unquiet Englishman: A Life of Graham Greene (Norton Company, 2021)等を中心にたどり、次にグリーンがSunday Telegraph などに寄せた記事を分析し、当時の国際情勢への知見の深さを確認した。 続いて独裁政権下のハイチを舞台にしたフィクション、The Comedians (1966)を精読し、この作品の原点が、現地での体験的取材によるジャーナリズムにあること、語り手ブラウンを、他の作品にも登場する冷戦時代のアンチ・ヒーローとして描くことに作者の主眼があったこと、またそこには、政治的なコンフリクトを世界中が体験している時代への作家としての眼差しがあったことなどを考察し、論文としてまとめて発表した。(『四国大学紀要・人文・社会科学編』62号、2024年、に掲載予定)
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では、当該年度はテキサス大学のハリー・ランサムセンターか、ボストン大学のジョン・バーンズ図書館に赴き、グリーン・コレクションからグリーンはメディアに寄せた記事などを閲覧・収集する予定であったが、個人的事情のため渡航できなかった。そのため、過去にテキサス大学などで収集した資料や、新たに購入した研究書などにより先行研究に基づいた研究を行った。 2023年度は、2025年度に行う予定であった、冷戦フィクションとしての再読を、先に行うことができたので、全体としてはおおむね順調に行っていると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
2024年度は、当初の計画通り渡英し、大英図書館や英国立公文書館を訪れ、主にグリーンの諜報活動に関する資料収集にあたる予定である。当時に、2023年度に渡航する予定であったが、上述したようにできなかった資料収集を英国で行いたい。1970年前後のヨーロッパ情勢(特にチェコのプラハの春、フランスの五月革命等の民主化運動)に関してのグリーンのメディアでの言説等を探してきたいと考えている。 帰国後は、それらを分析したり、Brennan, Michael. Graham Greene: Political Writer. London: Palgrave Macmillan, 2016. やAndrew Hammond (ed.), Cold War Literature, Oxford: Routledge, 2009.等の先行研究を参考にしたりしながら、グリーンが理想としていたと思われる「人間の顔をした社会主義」とはどのようなものであったか、全体主義への危惧を読み取っていたジョージ・オーウェルや、グリーンが関心を寄せていた南米の解放の神学と比較しつつ考察していきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画ではアメリカに調査研究に行く予定であったが行かなかったため、使う予定であった旅費を次年度(2024年度)に回す。
|