研究課題/領域番号 |
23K00371
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研究機関 | 大妻女子大学短期大学部 |
研究代表者 |
大平 栄子 大妻女子大学短期大学部, 英文科, 教授 (20160616)
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研究分担者 |
佐藤 弘夫 東北大学, 文学研究科, 名誉教授 (30125570)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 仏教文学 |
研究実績の概要 |
ラビンドラナート・タゴールの宗教、中でもタゴールと仏教との関わりは研究の乏しい領域であり、彼の仏教観、およびその形成過程(特に多くの日本人仏教者たちとの知的交流)、彼のブラフマン信仰と仏陀への帰依の念との関係性についての研究は手薄のままである。今年度はタゴールの仏教観が形成される思想的背景として注目される世界宗教会議(1893年シカゴで開催)に焦点化し、日本人仏教者たちが日本仏教・大乗仏教についてどのような発信を行ったかについて考察し、国際アメリカ学会で研究発表を行った。(発表タイトル:"The 1893 World's Parliament of Religions as a Contact Zone:Japanese Buddhists' Challenge to Cultural Imperialism”)日本人仏教者たちが宗派を超えた連携のもと、当時の宗教的リベラリズムにもとづく会議の趣旨(宗教の融和・対話)に沿いながら、日本仏教が目指す近代化された仏教としての読み替え・再構成された仏教(キリスト教に代わる普遍性をもつ、合理的、倫理的で、科学との融和性に富む宗教)を発信したことを確認した。 さらに、タゴールの仏教文学を世界の仏教文学に位置づける作業の第一歩として、タゴールの代表的仏教劇“Chandalika”を主として日本の代表的仏教文学である能作品「卒塔婆小町」との比較検討を行い、国際学会(IAFOR International Conference on Arts and Humanities)で研究発表を行った。両者とも主体性をもつ女性が菩提観を主張し、出家僧に対抗する言説がみられるという点で、きわめて独創的な仏教文学といえることを具体的に論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
タゴールの仏教文学の代表的作品としてChandalikaがあるが、その傑出した内容にも関わらずインド本国で注目を集めることはなく、西欧の視点で選抜された古典の名作で構成される世界文学研究でもその視野に入ることはなかったが、今年度は日本の代表的仏教文学である能作品と比較研究することによって、世界の仏教文学を書き換える必要があるほどの優れた仏教文学であることを論じ国際学会で発信することができた。 アジア協会本部(カルカッタ)および大菩提会において、タゴールの仏教に関する資料を収集し、かつ代表者との意見交換を行うことができた。 タゴールの仏教文学を検討するするうえで、ジャータカ物語が重要であることを再確認し、ジャータカに関する資料を網羅的に収集することができた。膨大な物語を読解する中で、代表的仏教文学であるジャータカが出家僧に女性との関係を断念させるための物語が多いことが確認できたが、その一つの物語に依拠するタゴールの“Chandalika”が種本から大きく変貌し、独自の文学になっていることが確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
I.2023年度において、タゴール国際大学所蔵の文献およびカルカッタの大菩提会所蔵の未発表原稿を発掘し、収集したものにもとづいた、タゴールの仏教観の変遷の解明を進める【2024 年度】。 Ⅱ、タゴールの5回にわたる日本訪問時の講演の反響、および交流に関する資料を網羅的に収集・分析し、英語文献を通じたタゴールと日本の知識人との交流を明らかにする。また、タゴールの仏教観および仏教文学に関する最新の研究書を集め研究史の整理を行う【24 年度】。 Ⅲ、 研究分担者・研究協力者とパネルを組んで、国内および国際学会において本研究の成果を発表する。2024年に近代日本仏教史研究会、25年にはAmerican Academy of Religion での発表を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
インドへの出張期間が諸事情により予定よりも短くなったために、次年度使用額が生じた。次年度において、資料収集、調査のためデリー、ブッダガヤ、タゴール国際大学への出張を予定しているので、旅費として使用したい。
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