研究実績の概要 |
本研究は、『アナイス・ニンの日記』編集版・初期・無削除版・アーカイヴ資料を比較研究し、21世紀にふさわしい、作家としてのニン再読・再評価を実現する試みである。 初年度である2023年は、8月に2週間ほどUCLA図書館に赴き、手書き日記9-22巻の調査を行なった。 大きな成果として、Critical Analysis of Anais Nin in Japan (Sky Blue Press)、『アナイス・ニンの魂と肉体の実験室――パリ、1930年代』(小鳥遊書房)を出版した。前者は日本人研究者によるニン論集で、Introductionに加え、3本の論文(“Twittering Machine of Paradise: Glimpses of Two of Anais Nin’s Japanese Daughters” “A Spy in the House of Sexuality: Rereading Anais Nin through Henry and June” “The Text That Is the Writer”)、1本の翻訳(Shigeru Kashima, “Imagination That Is Impure, Strange, and Demonic: A Review of The Diary of Anais Nin”)を寄稿した。冥王まさ子、矢川澄子、野島秀勝等日本人による優れたニン論をある程度歴史的に網羅し、世界に発信した意義は大きいと考えられる。また後者は、30年代のパリにニンの可能性の中心があると捉え、その時代と場所で書かれた、もしくはその時代と場所を描いた作品を集中的に取り上げたもので、本邦初となるニンのモノグラフである。長く停滞していた、もしくは近年、作家論・作品論が論じられることの少なかったニン研究を更新したものと自負している。
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