| 研究課題/領域番号 |
23K00401
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| 研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
長瀬 真理子 九州工業大学, 教養教育院, 准教授 (80636506)
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| 研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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| キーワード | シェイクスピア・フォリオ / 書誌学 / 異本研究 |
| 研究実績の概要 |
シェイクスピア第2・二折本(1632年、トマス・コーツ印刷)について、John Jowettバーミンガム大学名誉教授とともに現存個体の物理的特徴や収録劇作の版権推移、さらに本文異同の調査を行い、共著論文二本の執筆にあたった。本文異同に関しては、古版本データベースEEBOを用いて、第2版と第1版および先行四折版の本文校合を行った。その結果、ある劇作について、第1版に残された誤植から印刷用原本の手稿テクストの復刻に成功した。復刻されたテクストは、シェイクスピア自身が採用したテクストである可能性が高く、過去150年間にわたる現代版編集に一石を投ずる成果と言える。現代版では、第2版の読みが第1版の誤読を修正しているとして前者を採用してきたが、本研究では、第2版の編集者が前後の文脈と、古典に精通した自らの知識を応用し、敢えてオリジナルとは異なる表現を採用したことを明らかにした。 また、Hamletにおいて、第1版(‘inobled’)とは異なる、珍しい形容詞(‘mobled’)が先行四折版と第2・二折本において採用されていることを論じた廣田篤彦京都大学教授の論考を元に、‘mobled’の語源と復元の経緯を分析し、初演から30年近く経過した第2版編集における復元が編集者による先行版校合の証拠になりうると結論付けた。17世紀劇作における本文校合は稀なことである。加えて、シェイクスピア作品に関係する作者不明の詩の作者特定に成功したことも本年度研究の副産物である。研究成果の具体的な内容については、今後出版予定の論文で発表するため、本事業最終年度の研究成果報告においてあらためて報告する。
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| 現在までの達成度 |
現在までの達成度
2: おおむね順調に進展している
理由
課題遂行二年目に研究成果として国際共著論文を二本まとめることができたのは、当初の計画以上の進展である。一本については、既に提出を終え出版予定であるが、二本目の修正と提出完了までにはもう一月ほどを要する。 申請当初は、シェイクスピア第1・二折本に収録された36劇作品について、第2版から遡って現存するすべての異本校合結果をデータベース化する計画であったが、校合を進めるに当たって、第2版の編集過程を精査するためには、1632年以降に出版された異本を含めて比較する必要があることを理解した。データベース製作は計画より長期にわたる可能性がある。加えて、本年度予定していた第2版印刷者トマス・コーツの第1版印刷への関与の有無に関する調査は2025年度に実施するよう計画を変更した。従って、進捗は「概ね順調」という表現が適切と考える。
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| 今後の研究の推進方策 |
シェイクスピア第2・二折本の主幹印刷者であるトマス・コーツが第1版の印刷にも関与した可能性を調査するため、コーツの印刷物と推定される二つの古版本について、活字と紙の調査を国外稀覯図書館において実施する。その内一つについては、ESTC(古版本目録)で確認できる現存コピーがフォルジャー・シェイクスピア・ライブラリー所蔵の一冊のみであるため、実物調査が許可される可能性は極めて低い。事前に高解像度の画像データを所蔵館に依頼し、活字の調査を行うとともに、ESTCに記録されていない個体についての調査を行う。 令和8年3月には、Jean-Christophe Mayerフランス国立科学研究センター教授を招聘し、明星大学資料図書館における合同調査と九州地区における研究セミナーの開催を予定している。
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| 次年度使用額が生じた理由 |
本年度、国外稀覯図書館において予定していた第2版印刷者トマス・コーツの第1版印刷への関与の有無に関する調査を、2025年度に実施するよう計画を変更した。
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