研究課題/領域番号 |
23K00431
|
研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
久保田 静香 日本女子大学, 文学部, 准教授 (60774362)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
|
キーワード | ラムス主義 / デカルト主義 / ポール・ロワイヤル / ベルナール・ラミ / 文法 / 修辞学 / 論理学 / 自由学芸 |
研究実績の概要 |
2023年はブレーズ・パスカル(1623-62)生誕400周年にあたり、フランスをはじめとして、日本においても各所で記念行事が催された。その一環として①2023年9月8日に大阪大学で開催された「パスカル生誕 400 年記念シンポジウム「パスカルとポール・ロワイヤル」」にて「ラムスとポール・ロワイヤルの自由学芸改革―文法・修辞学・論理学― 」と題する口頭発表を行なえたことが最大の収穫であった。本研究課題の核心を成す、ラムスとポール・ロワイヤル派の間の直接的な影響関係について、テクストに即した具体的な事例を見出すことができ、研究の進捗の確実な手ごたえが得られた。また、②2024年1月20日のオンライン研究会「17~19世紀ドイツ・フランス・イギリスの言語論と美学」では「「ポール・ロワイヤル修辞学」の名のもとに ―ベルナール・ラミのレトリック論をつうじて― 」と題する口頭発表を行ない、フランスだけでなくドイツやイギリスの思想・文学研究者と交流する貴重な機会に恵まれた。さらに、2024年2月23日に日本女子大学で開催となった学術シンポジウム「「脱線」digressionの創造力:初期近代西欧の視覚芸術と修辞学の協奏」において行なった口頭発表③「ラムス主義と文彩論―「限定されたレトリック」からのアプローチ― 」では、美術史・建築史の専門家およびイタリア人研究者らに混じって、「脱線」という主題のもとに「文彩論」に関する研究の糸口をつけることもできた。 以上に加え、2024年3月前半に実施した1週間のフランス出張(アンジェ市立図書館、パリ国立図書館)によって、貴重資料の調査や必須欧文文献の購入のみならず、フランス人専門家(17世紀文学・思想研究者)から直接、専門知識の提供が得られたことも大きな収穫であった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は主に次の3つの問いに軸足をおいて遂行することを目的としている。1)16世紀後半のラムス主義者と17世紀後半のデカルト主義者(ポール・ロワイヤル派とベルナール・ラミが中心)の関係はいかなるものか。2)近世フランスの自由学芸改革(とりわけ「文法学/修辞学/弁証学(論理学)」の三科)において修辞学(レトリック)はいかなる役割を果たしているか。3)反レトリックを標榜するデカルト主義は、近代知の確立ないしは変容にいかに寄与したか。 2023年度中の研究をつうじ、1)と2)については、口頭発表「「ラムスとポール・ロワイヤルの自由学芸改革―文法・修辞学・論理学― 」」および「「ポール・ロワイヤル修辞学」の名のもとに ―ベルナール・ラミのレトリック論をつうじて― 」により、関連するテクスト細部を集中的に読み込んだことから、とりわけデカルト主義を奉ずるポール・ロワイヤル派がラムス主義をいかに受け止め、いかなる観点から前者が後者に対する批判を行なっていたか、そしてデカルト主義者ベルナール・ラミのレトリック書がいかにして18世紀を代表する思想家であるジャン=ジャック・ルソーの心をも強く捉えたのかといった諸問題の眼目を捉えることができた。そして「「ラムス主義と文彩論―「限定されたレトリック」からのアプローチ― 」と題した口頭発表を行なったことにより、16世紀ラムス主義レトリックにおける「文彩論」の位置づけを明るみに出し、18世紀以降に新たな展開を迎える「文彩論としての修辞学」の問題へと本格的に着手するための大きな足掛かりを得ることができた。 よって、当初の問題意識に沿って課題の解明に取り組みながら、新たな観点も盛り込むことができているという点で、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
まずは、2024年2月に行なった研究発表「ラムス主義と文彩論―「限定されたレトリック」からのアプローチ― 」にもとづく論文を『ロンサール研究 第37号』(日本ロンサール学会、査読付き)に投稿することが決まっている(2025年1月刊行予定)。口頭発表時には触れられなかった部分も盛り込み、より充実した内容となることを目指す。 次に、2024年9月11日にパリ第3大学名誉教授アラン・カンティヨン氏を招いて日本女子大学にて開催予定の国際シンポジウム"L'art de penser a l'age classique"(古典主義時代における思考の技法)でフランス語による口頭発表を行なうことが決定している(追手門学院大学・武田裕紀教授との共同開催)。パスカルと『ポール・ロワイヤル文法/論理学』の関係を主題とし、この発表の内容を補うかたちで2024年12月末日提出締切りの『パスカル読本』(法政大学出版会、2025年刊行予定)掲載用の日本語原稿にまとめる。 以上のとおり、日本語論文(査読付き)1件、フランス語口頭発表1件(国際シンポジウム)、日本語共著単行本用原稿1件、と多彩な媒体をつうじて研究の発表の場を広げていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、第一に、2023年度中に予定していた国際シンポジウムでのフランス語口頭発表が2024年度の実施となりフランス語原稿のネイティブチェック謝金等の支出が不要となったこと、第二に、当初「その他」枠に計上したILL資料代やコピー代が本務校の書類手続き上の都合で科研費からの支出とすることができなかったことの2点が挙げられる。 2024年度は9月に国際シンポジウムの開催が決定しているため、フランス語原稿のネイティブチェックに対する謝金の支払いが必ず必要となる。また同じ国際シンポジウムにおけるメインゲストであるフランス人研究者への謝金の支払いも発生する。そのほかコピー代、ILL資料代および書籍代等に計画的に充てて使用していく予定である。
|