研究課題/領域番号 |
23K00454
|
研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
真鍋 晶子 滋賀大学, 経済学系, 教授 (80283547)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | W,.B. Yeats / Ezra Pound / 能 / 狂言 / 笑い / 聖性 / folklore / 周縁(性) |
研究実績の概要 |
本研究は能楽との出逢いで独自の詩や演劇を生み出したアイルランドの国民詩人W.B.イェイツとアメリカ出身の詩人エズラ・パウンドの作品・詩学・ドラマツゥルギーに現れる「聖性」「俗性」および「祈り」の観念を、神話的英雄、民間伝承の妖精、聖者、また社会の周縁部にいる人々(特に、盲人など肉体に不具を持つ者)の描き方に、研究代表者の既存研究の基軸にある「笑い」をキーに見極め、両者の作品と能楽を繋ぐ根本に触れるものである。 研究初年度の23年は資料充実と同時に、パウンドの国際学会で、優れた武将だったが盲人となり乞食同然となる景清を主人公とする能『景清』のCantosでの扱われ方をパウンド訳『景清』や文学伝統と絡め発表、イェイツの国際学会では、その演劇での聖なるもの、英雄、そして笑いという本研究のテーマそのものの発表を行い、本研究の皮切りとした。このイェイツ学会では、前研究遂行中に出版された_Oxford Handbook of W.B. Yeats_についてのRound Tableに著者として登壇、その演劇への能楽の影響、逆にイェイツ演劇の能楽への影響を紹介し反響を得た。また22年度日本イェイツ協会・日本パウンド協会合同シンポジウムでのイェイツとパウンドへの狂言の意義についての発表の論文化が両学会誌に掲載され、前研究の総まとめとなると同時に、本研究へ結びついた。また、同年アイルランドにおける殉教についてのシンポジウムで、イェイツが能との出逢いで書いた演劇作品内の英雄クー・フリンを扱った論文の要旨を学会誌に掲載、イェイツの英雄の聖性と周縁者研究に発展させる一歩を記した。 能楽については、公演に出向き、疑問点や企画の可能性を能楽師(狂言師を含む)に聞き取った。また、能楽と同じテーマや登場人物が他の日本の伝統芸能で如何に扱われているかを落語家や文楽・歌舞伎関係者に聞き取ることも始めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記「研究実績の概要」に記したように、本研究のテーマに直接つながるテーマで、国際学会で研究発表2本、Round Table で1回発表をして、世界に問いかけた。いずれも共同研究の提案を受ける結果となり、ひとつは24年6月ベルギーでのアイルランド関係の国際学会での論文発表、ひとつは25年1月アメリカ、ニュー・オーリンズで開催されるModern Language Associationの大会で、パウンドと日本関連のシンポジウムでの論文発表と発展した。本研究に発展する前研究の成果論文1本(2つの学術誌に了解済みで掲載)、同じく本研究への続く前研究の成果につながるシンポジウムの発表報告1本も出版された。 ベルギーの学会は、イェイツの共同研究につながる研究交流から発しているのだが、6月の学会で発表する論文はイェイツに加えアイルランド人の血を引くラフカディオ・ハーンについてを中心に扱い、またMLAについてはパウンドに能狂言の指導をした久米民十郎とパウンド(とイェイツ)について扱う。本研究との関連は明確であるが、当初の研究計画をさらに深めるものとなる。(ちなみにハーン、久米とも前研究でも扱っていたものであり、ハーンを扱うことは、限定的ではあるが本研究の応募申請時に言及している。) また、パウンドの国際学会を運営企画していたアメリカ人研究者夫妻を、他大学の教員5名と協力して日本に招聘し、連続講演会を関東関西で12月に行うこととなったのも当初予定していなかった本研究の成果である。
|
今後の研究の推進方策 |
24年度は、基本的には23年度に準ずる。1)イェイツ、パウンド、ハーンの一次資料およ二次研究の発掘と研究、2)国内外の図書館・資料館調査(ネット上を含む)、3) 能狂言他の伝統芸能公演鑑賞、および、能楽師(狂言師含む)、落語家、文楽・歌舞伎関係者の聞き取り、4)成果発表i)「現在までの進捗状況」に書いたベルギーとアメリカでの国際学会での口頭発表、ii) 7月学習院大学でのInternational Association for the Study of Irish Literaturesの国際大会を、理事およびSteering Committee 委員として企画・運営、また「狂言ワークショップ」を企画、そこで狂言師の通訳、能面師から借用する能面の説明、さらにRound Tableでハーンに始まる日本のアイルランド文学研究が現在の演劇(能楽)にどのように発展してきたかについて論ずる。iii) 11月日愛協会の年次大会において、イェイツの演劇『猫と月』を大蔵流狂言茂山千五郎家により日本語の狂言での公演を企画、続きシンポジウムを企画・運営、さらにそこで論文発表を行う。iv) 23年度日本ヘミングウェイ協会シンポジウムで発表した_transatlantic review_におけるパウンドの詩論・音楽論とジョージ・アンタイルに関する論文の出版、v)すでに投稿し、査読待ちの論文への対処 25年度は23と24年度に準ずるが、最終年度として、成果発表を中心に行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初予定よりも、物品費および謝金の支出が低くなった。ただし、本年度より海外出張を再開して判明したのだが、円安と燃料費の高騰により、旅費を予定より高く支出したので、次年度予定している海外出張(国際学会に2回以上参加予定)に補填する予定をしている。
|