研究課題
(1)「脳の多様性」に関する認識を更新する作業に従事した。もし自閉スペクトラム症者が多数派だったら、通常は彼らに指摘される独特なコミュニケーション、強烈なこだわり、感覚過敏などは正常な「標準形」と見なされるようになり、自閉スペクトラム症のない「定型発達者」の感じ方や考え方が異常と見なされるようになる。つまり定型発達者は奇妙なコミュニケーション形式を持つ、自閉性を欠いた、繊細な感覚を持たない例外的な人間ということになる。このような思考実験に依拠して、正常と異常に関する規範や固定観念を脱構築し、「脳の多様性」の理念を深化させる。そのために、『ニューロダイバーシティの教科書』の著者、村中直人が提唱する多数派と少数派を入れ替えた思考実験を遂行した。この結果は『海球小説──次世代の発達障害論』(ミネルヴァ書房、2024年)として刊行済みである。(2)自閉スペクトラム症の当事者と文学作品を読み、彼らの感じ方や考え方を新しい文学理解の可能性として評価していく作業の準備をおこなった。京都府立大学の倫理委員会で審査を受け、人を対象とした研究の計画が学問的および倫理的に承認された。次年度は実際にインタビューを実施していく。(3)当事者批評を「総合型」「個人研究型」「対話経由型」の3種に分ける構想を得た。総合型は研究代表者の『みんな水の中──「発達障害」自助グループの文学研究者はどんな世界に棲んでいるか』(医学書院、2021年)のように当事者の体験世界をトータルに表現したもの。個人研究型は研究代表者の『創作者の体感世界──南方熊楠から米津玄師まで』(光文社、2024年)のように文芸批評型のもの。対話経由型は上記の(2)で実施するものである。(4)当事者批評の基礎となる当事者批評について白石正明氏(医学書院編集者)、石原真衣氏(北海道大学准教授)と対談をし、オンラインで配信した。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究の成果として、すでに『海球小説──次世代の発達障害論』(ミネルヴァ書房)および『創作者の体感世界──南方熊楠から米津玄師まで』(光文社)という2冊の著書を出版することができた。
実際に自閉スペクトラム症の当事者にインタビューを実施していく。すでに倫理委員会の承認を受けた研究計画であり、スムーズな進行が想定される。
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『ユリイカ』(総特集・大江健三郎 1935-2023)
巻: 2023年7月臨時増刊号 ページ: 604-613
『京都府立大学学術報告 人文』
巻: 75 ページ: 41-73
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