研究課題/領域番号 |
23K00480
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
長崎 郁 名古屋大学, 人文学研究科, 特任講師 (70401445)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | ユカギール語 / 引用表現 / 文法化 / 言語接触 |
研究実績の概要 |
本研究は、北東シベリアで話されるユカギール諸語を研究対象とし、ユカギール諸語が現在の姿に至るまでに生じた文法上の歴史的変容を解明することを目的とするものである。 研究期間初年度である2023年度の研究活動は以下の2点にまとめられる。 ① ユカギール諸語のコリマ・ユカギール語とツンドラ・ユカギール語のうち、ツンドラ・ユカギール語のテキスト資料のコーパス化に着手し、ソ連時代に収集・出版された原文テキストの電子化および文法的な注釈付けを進めた。研究代表者がこれまでに構築してきたコーパスデータは、コリマ・ユカギール語に偏っており、ツンドラ・ユカギール語のデータの拡充は、本研究を遂行するために必要不可欠な作業である。 ② コリマ・ユカギール語とツンドラ・ユカギール語における引用表現、特に直接引用、間接引用などの引用のタイプ、および引用標示部(引用を導入する表現)の現れ方について、コーパス調査に基づく記述的整理を行いながら、2言語間の類似と相違を考察した。現時点で分かったことは、第一に、コリマ・ユカギール語には引用標示部に現れる動詞 mon-「言う」が引用マーカーへと変わる初期的な文法化の段階にあると見なしうる用例が多数見られるのに対し、ツンドラ・ユカギール語には(少なくとも現時点で確認できる限り)そのような用例がないということであり、第二に、近隣諸言語の中でも、エウェン語(ツングース語族)にこのような文法化が報告されており、コリマ・ユカギール語がエウェン語との接触の結果、文法化プロセスを複製した可能性があるということである。 以上の引用標示部に見られる2言語間の違い、およびコリマ・ユカギール語におけるエウェン語からの影響の可能性に関する学会発表をおこない、他の研究者からいくつかの重要なコメントを得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の遂行上、必要不可欠な作業であるツンドラ・ユカギール語テキスト資料のコーパス化に着手し、一定量のデータに基づく調査が可能になった。 引用表現という文法現象に着目する中で、2つのユカギール語の間に見られる相違、文法的な変化の具体的な事例を発見することができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は今年度に引き続き、ツンドラ・ユカギール語のテキスト資料のコーパス化をさらに進め、より多くのデータに基づいた研究がおこなえるような環境づくりを進める。また、今年度から開始した引用表現に関する研究を継続し、コリマ・ユカギール語、ツンドラ・ユカギール語、および語族全体における特色、他言語からの影響を明らかにしてゆく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
人件費・謝金として計上した金額を使用できなかったことが次年度使用額が生じた最大の理由である。これは、予定したデータ処理に特殊な知識が必要であったため、適切な人材が見つからなかったことによる(今年度必要であった作業は研究代表者自身がおこなった)。 次年度は容易な作業と難しい作業を切り分け、可能なデータ処理作業は人件費・謝金を使用して外部に委託し、研究に必要な作業の効率化を諮る。
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