研究課題/領域番号 |
23K00485
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研究機関 | 神戸市外国語大学 |
研究代表者 |
下地 早智子 神戸市外国語大学, 外国語学部, 教授 (70315737)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | ダイクシス / 時空間メタファー / 中国語 / 時間詞 / 垂直系 / 視点 |
研究実績の概要 |
2023年度は、中国語と日本語における「視点」と「主観性・主体性」、および空間認識と時間認識の並行性に関するこれまでの考察をまとめ、学会における口頭での講演を行ない、論文を一本発表した。また、公開の段階にはないが、課題に関するアイディアを英文でまとめ(以下、ワーキングペーパーと称する)、有用なピアレビューを受けた。 講演では、空間指示(「右」と「左」、「ウチ」と「ソト」、指示詞、deicticな移動動詞)、および時間指示(時間詞、テンス・アスペクト標識)において、意味的に対立する語彙の選択に見られる日中の相違を確認し、そのような相違の背後には、対象を指示するための参照点の取り方の相違が一貫して働いていることを指摘した。このような参照点の取り方の日中差は、中国語における垂直系の時間詞の起点となるメタファーを解釈する上で、当課題における基礎を成すポイントの一つである。 論文では、ともに既然の事態をマークするように見える“了”と“的”が、双方ともに動詞の直後に置かれる場合と文末に置かれる場合において、並行的に情報の取り扱い方に関係していることを指摘した。 ワーキングペーパー(未公表)では、中国語の時間詞には「前」「後」のように水平系の形態素を用いる語類と「上」「下」のように垂直系の形態素を用いる語類があり、前者は経験者による自らの空間移動体験を起点領域とするが、後者は概念化者が河流や天体の空間移動を移動事象の外から観察することによって時間を把握していることから、両者の時間把握が認知的に対立的であることを詳述した。ピアレビューにおいては、認知言語学の時空間メタファー理論に関する理解に精確でない箇所がある可能性や、中国語の時間詞の体系が中国語を解さない読者に分かりやすく示されていない点などが指摘された。また、論旨に必要となる文献についても多くの情報の提供を受けた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当課題の2023年度の予定は、「概念メタファー理論や「主観性/主体性」の理論は、近年国内外において急速な進展が見られるので、1年目は、最新の理論を追いつつ、V系に関する4つの有力な認知モデルについて理論的な検討を行う。その際、起点領域となる方位詞としての用法や空間移動動詞としての用法などからの写像関係を根拠として示す。」というものであった。4つの認知モデルとは、先行研究で提案されている起点領域のうち、客観的な根拠を有する点で有効なモデルであると考えられる「河流のメタファー」「太陽のメタファー」「人体のメタファー」「行列のアナロジー」を指す。ワーキングペーパーでは、それぞれの有力な根拠と、主として空間指示との対応関係などにおける欠点を整理した。これに対して、ピアレビューでは、最新のメタファー理論が十分にカバーできていない可能性が指摘されたので、次のステップに進むにあたり、中国語の時間詞の記述をさらに分かりやすいものに充実させるとともに、各モデルの理論的位置付けに関するさらなる分析が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
当課題の2024年度の予定は、「引き続き理論の進展を追いつつ、中国語の時間詞におけるH系とV系の体系的な機能分担について記述する。その際、優れた蓄積のある中国語の方言文法におけるV系の記述や、時間詞の歴史的な検討、中国語の周辺言語との対照研究等による記述を参照し、その成果を盛り込んだ記述を目指す。」というものである。したがって、今年度の作業は、(1)引き続き理論の進展を追う、(2)中国語の時間史における体系的な機能分担について記述する、(3)方言文法や歴史研究、周辺言語における状況の記述を整理する、の3つになる。 (1)については、前年度のピアレビューで得られた提案に沿って進めていくとともに、 the Inaugural Cognitive Linguistics Conference of North America (CLANAC1)に参加し、海外の認知言語学、とりわけメタファー研究者と意見交換を行いたい。 (2)については、CLANAC1における発表に向けて、昨年度の記述をさらに洗練された分かりやすいものに修正していくこととする。 (3)については、方言文法や歴史的な検討に当たって必要な文献はすでに収集してあり、分析に取り掛かる準備が整っているが、周辺言語については簡単な記述を散見しているのみなので、さらなる情報収集にあたる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
文献収集に遺漏があったため、若干の次年度使用額が生じた。次年度には、北米における研究発表を予定しているので、旅費等に使用する予定である。
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