研究課題/領域番号 |
23K00495
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大西 克也 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (10272452)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 言語学 / 中国語 / 歴史言語学 / アスペクト / 文末助詞「矣」 |
研究実績の概要 |
上古中国語において高頻度で使用される文末助詞「矣」は、完了相(perfect aspect)を表すアスペクト助詞であるとの理解が近年定着しつつある。これに対し本研究では、「矣」の文法的機能をアスペクト及びモダリティの観点から再検討した結果、近年の通説に反して完了相助詞であるとの説は成り立たないこと、その本質的機能は特定の時空間において事態が確実に存在することを主張するモダリティ助詞であることを明らかにした。 従来の研究では、「矣」と現代中国語の文末完了相助詞「了」との類似性についての『馬氏文通』以来の認識に基づき、「了」のアスペクト機能を「矣」に投影する形で議論が行われてきた。本研究は、「矣」を付加した状態動詞が実現済みの変化を表わさない等、基本的な機能において「了」と異なること、完了相的時間認識の表出において「矣」は決定的な役割を果たしていないこと等、従来の完了相説が見逃していた重要な事実を明らかにした上で、近年の研究においてはあまり重視されてこなかったモダリティ機能をむしろその本質と見るべきことを指摘した。発話時における確実性主張の対象となる出来事は、発話時に先立って確実に当該時空間に存在する。このような点が、従来の研究において「矣」が完了相を表すと誤認されることになった原因である。 「矣」は上古中国語のアスペクト研究において、「既」「已」等とともに中心的なマーカーであると見なされてきた。「矣」の文法機能の本質がアスペクトでないことを明らかにした本研究成果は、上古中国語のアスペクト研究について、ある意味振出しに戻って検討する必要があることを示し得たものと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上古中国語のアスペクト研究において最も関心を集めてきた助詞「矣」の基本的な性質を明らかにし得たことは大きな成果である。また、「矣」の基本的な機能が完了相マーカーでなかったという本研究が正しいとすれば、上古中国語において完了相というアスペクトが範疇化されていたのか否か自体が検討の俎上にのぼる。これは上古中国語においてどのようなアスペクトが文法範疇として機能していたのかという点を研究課題の一つとしていた本研究の問題意識に沿った成果であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
推進方針について特に変更はない。「未」「既」「已」「也」等上古中国語においてアスペクト機能を持つとされる関連諸語について順次調査を進め、アスペクト機能を解明する予定である。また、上古中国語の動詞の語彙的アスペクト(アクチオンスアルト)の特徴についても、何らかの形で明示的に言及したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は些少であり、無理に執行の措置を取らなかったために生じたものである。誤差の範囲として次年度に繰越し使用する。
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