研究課題/領域番号 |
23K00514
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
金澤 雄介 近畿大学, 国際学部, 准教授 (70713288)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | サルデーニャ語 / シチリア語 / 地中海 / 地域言語学 / 南ロマンス諸語 / DOM / 非屈折不定詞 / 非従属節化 |
研究実績の概要 |
2023 年度の前半は、前年度に引き続いて、古サルデーニャ語における「規定」を意味する不定詞の形態統語論的特徴について分析をおこなった。その結果、「規定」を意味する不定詞は、非屈折不定詞であることと、このような不定詞は「非従属節化」によって生じたことを主張した。本研究成果は、日本ロマンス語学会第 61 回大会において発表をおこなった。以上の分析を足がかりとして、非屈折不定詞を導く補文標識には de と a、そして補文標識の省略の 3 パターンが見られることが明らかとなった。今後はこのような補文標識のバリエーションに加えて、補文標識の反復という現象についても合わせて考察する予定である。 2023 年 10 月に国立民族学博物館が主催するシンポジウムで「地中海島嶼ロマンス語の分布と系統―名詞の有生性にまつわる諸問題から考える」というタイトルで講演をおこなった。講演では、サルデーニャ語、シチリア語、コルシカ語における Differential object marking と直接目的語の有生性・数の関係についての概観と対照をおこなった。また島嶼ロマンス語の分布と系統についても議論をおこない、本講演を本研究課題の出発点として位置づけることができた。 2024 年 2 月に、パレルモの Biblioteca centrale della Regione Siciliana と、カターニアの Biblioteca Regionale Universitaria を訪れ、シチリア語学に関する資料収集をおこなった。また、パレルモ大学の Centro di Studi Filologici e Linguistici Siciliani 所長の Giovanni Ruffino 教授と面会し、シチリア語研究の今後の方向性について意見をうかがった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上に述べた、国立民族学博物館が主催するシンポジウムのテーマは本研究課題と一致するもので、本研究課題の今後の進展にとって極めて有益な機会であった。講演では、Differential object marking はロマンス語圏に広く観察される現象であるが、島嶼ロマンス語はほかの地域から独立した形でこの現象を共有していることを論じた。この事実は、地域言語学的な概念としての「南ロマンス諸語」を認めることの可能性を示唆している。 またシチリア島における資料調査では、インターネットでは販売していないシチリア語学に関する書籍、また現地の図書館でしか閲覧できない論文などを入手することができた。 以上の理由から、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、特にシチリア語における非屈折不定詞および補文標識の形態統語論的特徴について、通時的観点からの分析を推進し、サルデーニャ語との共通点を明らかにしていきたい。同時に、サルデーニャ語とシチリア語における音韻論と動詞形態論(とりわけ動詞の分析的構造と、複合時制・存在文における助動詞の選択性)の通時的考察にも着手する予定である。これらの研究によって、従来のロマンス語系統論ではとらえられなかった当該地域の言語の地域的特徴について明らかにするための足がかりとしたい。シチリア語の古文献のコーパスについては Gatto Web が提供するオンラインコーパス"Corpus OVI dell'Italiano antico" を用いる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023 年度に購入予定であった複数の書籍が未出版であるため、次年度使用額が生じた。これらの書籍は間もなく出版予定とのことであるので、次年度に使用する予定である。
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