研究課題/領域番号 |
23K00540
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
杉本 妙子 茨城大学, 人文社会科学部, 特命研究員 (30206429)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 茨城方言 / 方言資料としての昔話集 / 昔話に使われている方言 / 方言の変遷 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、方言研究が盛んではなく、方言研究によって得られた方言資料も少ない地域において、昔話集が方言資料の少なさを補いうるものと考えて、それに該当する茨城において昔話集を活用した調査・研究を行うものである。研究の目的は、茨城方言の昔話集について、方言資料としての有用性を検討、確認した上で、「①方言資料として有用だと認められる昔話集に使われているかつての茨城方言の特徴を明らかにする。②各種先行研究と新たに行う方言調査等と比較して、当該地域の方言の変遷の様相を明らかにする。③方言資料として方言集を使用する際の留意点を示す」ことである。令和5年度に取り組んだのは、下記の3点である。 1 茨城県北部の昔話資料『高萩の昔話と伝説』(高萩市教育委員会編、1980)について、昔話の採集方法、文字化の仕方、話者情報、本文と同書中の「高萩の方言資料」(宮島達夫氏による)との比較から、方言資料としての有用性を検討した。その結果、方言資料として見ると、必ずしも発話どおりの表記ではない、昔話として文を整えようとする傾向がある、高萩市出身でない話者が少なくないなどの問題があるが、それらに十分に注意すれば方言資料にできると判断した。 2 高萩市出身の話者の昔話に限定し、使われている意志・推量の「ぺ、べ」、方向・着点を表す助詞「さ」、カ変・サ変動詞の一段化傾向、方言語彙を抽出し、データベース化して分析を開始した。(データ入力にアルバイトを雇用) 3 上記2の文法項目のデータとその分析の一部を、茨城方言に関する2件の講演等において公表した。1つは講演「茨城の昔話資料の中の茨城方言」(茨城県立歴史館企画展「むかしのくらし」、令和5年9月10日)、もう1つは「『茨城方言かるた』解説書・改訂版ver.2」(令和5年度文化庁委託事業「昔話の会・方言かるたによる地域方言意識の向上プロジェクト」)である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の初年度の計画の主要なものは、茨城方言の昔話集を方言資料として扱いうるかどうかについて検討すること、方言資料となりうる昔話集(『高萩の昔話と伝説』)に使われている茨城方言の文法・語彙についてデータベース化することであった。前者について、『高萩の昔話と伝説』に収録された昔話と方言研究者による文字化資料とを比較し、両者の違いやずれ、方言資料とする場合の留意点を把握した。後者については、『高萩の昔話と伝説』の中で高萩市出身話者の昔話の文法・語彙(俚言)を抽出してデータベース化した。データベースのうち、文法項目について観察・分析し、その一部を茨城方言についての講演等において公表することができた。以上のことから、令和5年度の取り組みは、概ね予定どおりに進めることができたと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
『高萩の昔話と伝説』所収の昔話について、音声データを探し、入手できた場合は、令和5年度にデータベース化の対象とした昔話と音声データを比較し、音声データにもとづくデータベースを作成する。また、『高萩の昔話と伝説』所収の高萩市外出身話者の昔話についても、出身地域を考慮して、一部をデータベース化する。高萩市以外の出身者の昔話にも注目するのは、茨城方言における高萩方言の位置づけや特徴を考えるために重要だからであす。そして、方言資料としての『茨城の昔話』(鶴尾能子編、1972)のデータ(県央出身者の昔話について調査済み)とあわせて、昔話集に使われている茨城方言の諸特徴(発音・文法・語彙、及び地域差など)について、記述的研究としてまとめる。追加できる資料を入手できた場合は、適宜、そのデータも追加する。 それらをもとに、昔話集の方言の諸特徴の使用・認知等について、高年齢層を対象にした現地調査を行い、現時点における方言使用・認知の状況を把握するとともに、昔話採集時の茨城方言と比較し。どのような変化が観察されるか比較、分析する。さらに、その比較の結果や先行研究をもとに、令和7年度に実施予定の若年層対象の方言の認知度・使用度等についての多人数調査の準備として、調査票の項目検討等を進める。 研究成果は、順次、口頭発表や論文等にまとめて発表する。最終年度には、研究成果の総括として、多人数調査結果を含めて報告書にまとめて公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和5年度の主要な取り組み計画については実施できたが、昔話資料調査と文献調査が十分にはできず、文献等の購入ができなかった。したがって、令和5年度に入手できなかった文献については、令和6年度に購入する予定である。 旅費に関しては、令和5年度文化庁委託事業「消滅の危機にある方言の記録作成及び啓発事業」に採択された「東日本大震災被災地方言の記録作成及び啓発事業」(代表は東北大学、茨城大学は再委託)の取り組みに多くの時間を割かざるを得なかったため、本研究課題だけのための現地調査等が困難となり、旅費の使用に至らなかった。とはいえ、茨城方言並びに茨城の昔話に関する現地調査等は個人的には実施しており、その結果も踏まえて、令和6年度の本研究課題における現地調査等に活かす計画である。
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