研究実績の概要 |
今年度は、日本語のクレフト構文における多重焦点の構造について検討した。Takano (2020)において、多重焦点は[X, Y]の構造を持つと主張されているが、この構造からはXとYが相互にc-commandできることになる。しかし、XもしくはYに照応形が含まれる場合、XがYに含まれる照応形の先行詞にはなれるが、Xに含まれる照応形の先行詞にYがなることはできない。つまり、XがYをc-commandする構造になっており、[X, Y]構造は維持できないことを意味する。 このXとYの非対称性を捉えるために、Chomsky (2013)に従い、[Conj(unction) [X, Y]]構造からXが上昇移動を起こし、[X Conj [<X>, Y]構造を形成すると主張する。この移動の結果、XはYをc-commandする一方、YはXをc-commandできないことになる。この分析は日本語に非顕在的な等位接続詞が存在することを示唆するものであり、意味的側面から日本語における非顕在的な等位接続詞の存在を示唆したMitrovic and Sauerland (2016)を支持するものである。 さらに、本分析のもと多重焦点に関する言語間差異についても検討を開始した。英語で多重焦点が容認されない事実について、Boskovic (2008, 2009, 2012)が提唱するDP言語とNP言語の構造的な差異から、DP言語である英語においては[Conj [X, Y]]の構造が相(phase)を形成するとし、XとYがそれぞれの元位置にあるXとYをc-commandできず、元位置のXとYがコピーと見做されず問題が生じると考える。 クレフト構文に加えて、分担研究者である前田雅子氏は日本語のsyntactic amalgamについて統語分析を行い、引用句に関わる併合の特性を明らかにした。
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