研究課題/領域番号 |
23K00654
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
柴田 美紀 広島大学, 人間社会科学研究科(総), 教授 (90310961)
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研究分担者 |
佐藤 龍一 広島大学, 未来共創科学研究本部, リサーチ・アドミニストレータ― (50968443)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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キーワード | アイデンティティ / EMI / ポジショニング / ナラティブ・フレーム / 道徳的秩序 |
研究実績の概要 |
助成1年目の2023年度は、本研究の3つの課題のうち、2つを検証するためデータ収集を行った。具体的には、EMI(English-medium instruction)環境における日本人の自己と他者のポジショニングを決定する3つの要因-(a)自己認識(アイデンティティの選択)、(b)行動規範(道徳的秩序)、(c)理想の自己(将来像)、および彼らのアイデンティティに影響を与える外的要因・条件を探るためのデータ収集である。 学部倫理委員会の承認を得た後、2023年度に、英語で学位取得可能なプログラム(English-taught program, ETP)に入学した学生に研究協力を呼びかけ、21名の学生が参加を希望した。経験抽出法にヒントを得た手法で、2週間に1度参加者のスマートフォンにシグナルを送り、ナラティブ・フレームに書き込みをしてもらった。この方法で2023年5月から2024年3月までデータ収集を行ったが、途中で辞退する学生がおり、年度末まで継続したのは16名であった(日本人14名、留学生2名)。2023年8月と2024年2月にフォローアップインタビューをオンラインで個別に行った。ナラティブ・フレームの記述と文字化したインタビューデータの分析は、質的データ分析ソフトMAXQDAを用いた。まず、研究代表者と研究分担者がそれぞれコーディングを行った後、お互いの分析結果を確認した。その結果、研究分担者のコーディングを基準とし、両者が再コーディングを試みることにした。この作業とインタビューデータの分析(コーディング)は2024年度に行う。 データ分析は継続中であるが、これまでの分析から見えてきたのは、留学生と共に学ぶEMI環境において、日本人学生は、過去に教育機関で学んだ経験に基づく道徳的秩序を用いて自己と他者を比較し、自己の英語力やクラスパフォーマンスを判断していることである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究が順調に進んだ理由として、以下のふたつが挙げられる。まず、入学して間もない時期に研究協力を依頼するため、2023年2月からナラティブ・フレームのテンプレートを作成し、パイロットスタディを行って準備を進めていたことである。次に、タスク開始後、常に参加学生とコミュニケーションを取ったことである(メールでメッセージを送ったり、個別に対面で記述内容について説明したりするなど)。また、個別に行ったインタビューでは、それまでの記述に言及しながら、良い点と改善点を指摘し、振り返り(リフレクション)を行う際のヒント、ナラティブ・フレームで求められている記述内容を改めて説明した。 本研究は、参加学生の入学から卒業までのアイデンティティの変遷を検証することを目的としており、研究協力の継続が不可欠である。そのためには、学生とのコミュニケーションは必須である。この点で、上述した学生とのやり取りが研究の進展につながったと言える。ただし、記述やインタビューでの回答に影響しないように、学生と研究以外のことで関わったり、必要以上に学生との距離を縮めたりしないように配慮した。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、まず1年目の2023年度に収集したナラティブ・フレームの記述とインタビューデータの質的分析を継続する。そして、データ分析が終了したら、1年目の研究結果を論文にまとめる予定である。2年目も前年度同様、研究参加者である学生からデータを収集するが、その方法が少し異なる。2023年1月に学生の記述を精査し、調査方法とナラティブ・フレームを再考した結果、2024年度からナラティブ・フレームの記述には学生がアクセスしやすいFormを用いることにした。また、学生からより安定した分かりやすい記述データを得るため、ナラティブ・フレームの文体を修正した。ただし、語句の入れ替えと文末の表現の変更に留まっており、大きな文言修正ではないので、2023年度に収集したデータとの比較には影響はない。
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次年度使用額が生じた理由 |
1年目の2023年度は成果が出ていないため、学会発表は行わなかったので、学会参加のための旅費を執行しなかったことが理由である。また、参加学生が申請時に予定した人数より少なかったことも理由である。 助成金は、学会参加への旅費および学生への人件費・謝金の支払いに使用を計画している。学会では、1年目の成果を発表する予定である。参加学生にはナラティブ・フレームへの書き込みを継続してもらう一方で、2024年度は必要に応じてインタビューの回数を増やす検討をしている。
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