研究実績の概要 |
Evidence based medicine (科学的根拠による医療)は統計や量的研究に代表される科学的データに基づく医療系研究の根幹を成してきたが、「人」や「こころ」を対象とする治療あるいは健康科学の実践において、データや数字上では捉えきれない事象に対応する術についての検討も必要とされてきた。そのような医療者教育にかかわる人文系研究者の一員としてHunter (1991)は「医学は科学ではなく、解釈的アプローチである」と述べた上で「医学は基本的にナラティヴの形を取る」と定義づけた。この言説はその後のナラティブ・メディスンの誕生へと結びついている。 本研究に関し、すでにナラティブ・メディスンのための英語文献精読活動のスキーム開発のために、医療系分野の教育に文学が導入された目的に焦点を当て拙論、「ナラティヴを介した文学と医学の共鳴と協働 ― ナラティヴ・ターンを軸にした解釈による ―」.『愛知県立大学看護学部紀要 28』において発表していたが、今年度の実績としてはそれを受けて、2023年度の計画であったそもそも「ナラティブ・メディスンのテクストは何を対象としているのか」という問いを掲げ、他分野のナラティヴと医療系のそれとの違いを明らかにするため、関連文献を分析し、その成果を「ナラティブ・メディスンのテクストとは何か―医療領域における『物語』の特徴―」, 『愛知県立大学看護学部紀要 29』, 1-9, 2023. において明らかにした。 加えて、医療系分野でどのような文学作品が扱われる傾向にあるかについて関連文献を精査し、且つ、医療系研究者の文学作品を基にした研究について分析し、拙論、「医療系分野で文学作品を扱う二つのアプローチについて―ナラティブ・メディスンとの関係性を念頭に―, 片平59号」, 51-65,2024.において発表した。
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