研究課題/領域番号 |
23K00820
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
川戸 貴史 名古屋市立大学, 大学院人間文化研究科, 教授 (20456289)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 日本史 / 中世史 / 貨幣史 / 中近世移行期 / 海域アジア史 / 東アジア / お金 / コイン |
研究実績の概要 |
本年度は、研究を遂行するための関連史料を網羅的に蒐集すべく、刊本として刊行された自治体史などの史料集のほか、17世紀にかかる未活字史料の調査を行うこととしていた。 具体的には、『愛知県史』『岐阜県史』『三重県史』『加能史料』『福井県史』『信濃史料』に掲載されている16世紀から17世紀にかけての貨幣流通に関する史料について蒐集を進めることとし、完了はできなかったがおおむね蒐集が進み、その整理を行った。整理の結果、たとえば尾張国名古屋藩(尾張藩)領では一般的に金貨流通が主となっていたことで知られているが、17世紀前半までは銀貨の流通が優勢である可能性の高いことが浮かび上がってきた。周辺の伊勢・三河・美濃各国についての分析はこれから進める予定であるが、17世紀の尾張国において銀貨から金貨へと主要使用貨幣がなぜ変化したのかについて、当時の経済事情のみならず、政治情勢からも分析する必要のあることが明らかとなった。次年度以降もさらに史料の蒐集と分析を進める予定である。 以上の調査・分析とは別に、16世紀から17世紀にかけての日本の貨幣流通事情がグローバル経済とどのように関わっているかについても研究課題としているが、それに関して、2023年6月にブルガリア共和国のソフィア大学において開催されたヨーロッパ貨幣学協会(European Coin Find Network)主催研究会にパネルのメンバーとして参加し、15世紀から17世紀にかけての日本における金属貨幣流通の具体的経緯について研究報告し、ヨーロッパの金属貨幣流通を主に研究している参加者たちと意見交換を行った。日本を含む東アジアとヨーロッパとの間では金属貨幣の形状から発行、流通の実態について様々な相違が存在するが、その相違の要因について、ヨーロッパの流通事情についての理解を深めることで思索を深める機会を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は本研究に直接関係する史料や先行研究等の蒐集を進めることを主な予定としていたが、それについてはおおむね達成することができた。しかし、すべての蒐集作業を完了することはできなかった。引き続きその作業を進めて行くこととしたい。 一方、最終年度に予定していた海外学会における研究報告について、幸いにも今年度に一度実施することができた。この点においては予定より順調に進展させることができた。しかし今後の本研究の進展によって新たな論点を導き出すことになることが予想されることから、海外あるいは国内において別途本研究に関わる研究報告の機会を得るよう努力をしたい。 以上の理由により、本研究はおおむね順調に進展しているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に完了予定としていた関連史料蒐集がまだ完了していないので、その完了をまずは目指したい。その後は蒐集史料の分析に着手し、伊勢湾沿岸地域のみならず北陸や信濃周辺、そして東北や関東についての16世紀から17世紀にかけての貨幣流通の実態につい分析を深めることとしたい。先行研究においては特に17世紀については研究が不足しているので、その課題について特に力を入れて取り組みたい。 先行研究の蓄積が比較的多い出羽国秋田藩佐竹氏による院内銀山開発の研究についても、近年の貨幣流通史研究の進展を踏まえて再検討を要する論点があるので、関連史料の分析による再検討を進めることとしたい。 以上の分析を進めつつ、今後の研究発表や著書出版の準備も実施する予定であり、分析結果の論文化を着実に進めていくこととする。具体的に一つ取り上げると、2024年8月に愛知県内において研究報告を実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究は概ね順調に進み、出張にかかる旅費についてはおおよそ計画通りに支出したが、物品費については研究遂行に必要なパソコンを予定通り購入したものの、研究にかかる日本中近世史研究書籍については、購入するためのリストアップを行っていたものの、当該年度の研究進行状況に鑑みて次年度の購入に繰り越すこととなった。 次年度は予定通り使用する予定である。
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