研究課題/領域番号 |
23K00839
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
木部 和昭 山口大学, 経済学部, 教授 (20263759)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 浦方 / 漁村 / 港町 / 水主役 / 漁業史 / 浜田藩 / 萩藩 |
研究実績の概要 |
本年度は、浦方の実態解明のため、主として浜田藩領(島根県益田市および浜田市)に残された浦方関係文書の調査を実施した。 9月に益田市および浜田市にて予備調査を実施し、教育委員会の担当者から史料所在情報を得ると共に、文献収集を行った。益田市に関しては、浜田藩領益田組中須浦の古文書である「中須自治会文書」の調査・撮影を11月に実施した。 一方、浜田市域の史料に関しては、同市によって所蔵・整理された複数の文書の調査を11月および1~3月の間に3度にわたって実施し、大きな成果があった。中でも、同市教育委員会所蔵の「谷田家文書」は特筆すべき史料群であった。浜田藩領の浦方は、浦奉行の下で四組に編成され、各組ごとに置かれた浦大年寄がこれを統轄していたが、谷田家は跡市組(東浦組)の浦大年寄をつとめた家だったからである。この他にも東浦組の浦方であった唐鐘浦の「唐鐘公民館文書」(同市教育委員会所蔵)、久代浦の「中尾尾崎家文書」(浜田市立中央図書館所蔵)の調査・撮影も実施し、浜田藩の浦方制度の実態解明が期待できる。 浜田藩の浦方関係文書としては、神奈川大学常民文化研究所所蔵の漁業制度史料調査筆写稿本の内、三隅組の浦大年寄であった「鈴木家文書」についても3月に調査を実施した。これは筆写史料ではあるが、原文書が所在不明であるため、本研究にとって貴重なものであった。常民研の調査は複数回予定していたが、浜田市に想定以上に残されていた浦方関係文書の調査を優先したため、1回しか実施できなかった。 浜田藩領の調査を優先した結果、萩藩および岩国藩に関する調査はあまり進まなかったが、萩藩船手組頭・村上家文書(山口県文書館所蔵)の調査を5月に実施した。ただ、同家文書は什書類が中心で、浦の実態を示す史料はほとんど無かったのが残念である。萩藩および岩国藩の関係史料については引き続き調査を進めたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、浜田市において想定以上に浜田藩の浦方関係文書が残されていることが判明し、その調査を優先したため、以下のように研究計画にやや遅れが生じている。 本年度に予定していた萩藩および岩国藩の藩政文書の本格的な調査は、研究代表者の勤務校の地元に残る史料群ということもあって、完全に先送りにしてしまった。そうした中で実施した萩藩船手組頭・村上家文書(山口県文書館所蔵)の調査では、浦の実態を示す史料がほとんど含まれていないことが判明し、船手組と水主役制度に関する研究をまとめるには至らなかった。 また、神奈川大学常民文化研究所所蔵の漁業制度史料調査筆写稿本の島根県分の調査も、日程の都合で一度しか実施することができなかった。 以上のように進捗状況に遅れは生じているが、これは想定外に史料が見つかるという、ある意味うれしい誤算の結果であるため、研究の遂行に問題はないものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
浜田藩領の浦方関係史料については、一部が島根県立図書館(松江市)にも所蔵されているという情報を得たため、まずはその調査を実施する。この際、島根県公文書センター(松江市)所蔵の旧浜田県庁文書から、明治初年の「漁業慣行調査」についての史料調査もあわせて実施する。 また、神奈川大学常民文化研究所所蔵の漁業制度史料調査筆写稿本の島根県分の調査については、副本が水産資源研究所図書館(横浜市)にも所蔵されており、こちらは写真撮影も可能であるという情報を得た。このため、調査先を水産資源研究所図書館に切り替え、石見国だけでなく出雲国(松江藩)分も含めた筆写稿本についての調査・撮影を早期に済ませる予定である。 以上により、浜田藩の浦方制度についての調査は一段落するので、萩藩との比較も交えた分析を論文にまとめたい。 これらと並行して、萩藩については、萩藩の藩政文書群である毛利家文庫(山口県文書館所蔵)を中心に、天正検地(太閤検地)にまで遡って浦方制度の源流を見出すとともに、参勤交代・朝鮮通信使関係史料などから水主役・船役と漁業権の関係を再検討する。また、岩国藩については、漁業や廻船業、水主役に関する史料を吉川家寄贈藩政資料(岩国徴古館所蔵)より抽出し、まずは基本的な浦方制度の概要と水主役の実態把握に努める。萩藩に関しては、研究代表者にある程度の研究蓄積もあるため、何とか研究の遅れを挽回できる見込みである。
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次年度使用額が生じた理由 |
島根県浜田市の旧浜田藩領で、想定以上に多くの浦方関係文書の所在が確認され、その調査を優先したため、予定した調査が実施できなかったためである。具体的には、当初2回程度を予定していた神奈川大学常民文化研究所(横浜市)への調査が1回しか実施できず、岩国市の岩国徴古館への調査は全く実施できなかった。 その分、次年度以降に購入予定だった『松江市史』(松江藩関係図書)を前倒しで購入したが、若干の経費が残った。 この残額は、翌年度分経費とあわせて、松江市の島根県立図書館および島根県公文書センターへの史料調査(4日間×3回)、横浜市の水産資源研究所図書館への史料調査(4日間×3回)、岩国市の岩国徴古館への史料調査(3日間×3回)で旅費として使用する計画である。また、調査の際に必要を感じた若干の撮影機材(小型の三脚など)の購入にも充てる予定である。
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