研究課題/領域番号 |
23K00842
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
稲葉 継陽 熊本大学, 永青文庫研究センター, 教授 (30332860)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 永青文庫細川家文書 / くずし字AI-OCR / 藩政史料 / 大名領国社会 |
研究実績の概要 |
1. TOPPAN会社が開発しているくずし字AI-OCRシステムを、17世紀の細川藩政史料の解読用にカスタマイズするための基礎的作業を進展させた。具体的には、「奉書」(藩主の口頭での命令を書き留めた記録)、「奉行所日帳」(細川家奉行所の日報)を中心とした藩政記録史料の画像データ1284カットをくずし字AI-OCRにかけて翻字データを作成し、それを研究協力者の後藤典子が原本校正をかけて誤字を修正し、そのデータをくずし字AI-OCRに学習させるという作業を実施した。これによって、技術的な課題である17世紀の速記的な藩政記録史料解読の精度を71.6%まで向上させることができた。
2. 次年度からの史料画像データのくずし字AI-OCRによる大量処理作業に対応するためのサーバを、TOPPAN株式会社内に構築した。
3. 研究代表者の稲葉は、本研究と密接にかかわる研究として、単著『近世領国社会形成史論』(全397頁、吉川弘文館)を2024年2月1日付けで上梓した。既存の時代区分をこえた大名領国社会の形成過程を、細川家のそれを中心に示した研究書であり、本研究を展開する土台をなす内容となる。具体的には、戦国期の自治的な村共同体が近世大名領国の展開をどう決定づけたのか。主に熊本藩細川家を例に、百姓身分の特質、村請制、城割、中間行政機構、境目地域、郡奉行の行政権、諫言、「御国家」などを論点に追究した。大名領国の経済的土台から法的・観念的上部構造までを総体として把握し、幕藩関係の画期とされる寛永飢饉期を地域社会の側から捉え直そうと試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最初の2年間は、①くずし字AI-OCRシステムの技術的な課題の抽出、それによるシステム改善、すなわち翻字制度の向上、②くずし字AI-OCRによる大量処理作業に対応するためのサーバの構築、③対象史料群約310冊56,500丁全体のフルオートでのテキストデータ化、専用検索システムの構築による、対象史料群のデータの活用可能な状態への処理、を完了する予定である。これは、本研究の計画後半における対象史料群からのキーワード検索による具体的な研究を展開するための不可欠な前提をなす作業である。 本年度は、熊本大学永青文庫研究センターとTOPPAN株式会社との協力のもとで、①および②をほぼ予定どおりに進展させることができた。よって、おおむね順調に進展していると評価される。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度 対象史料群のすべてをフルオートでテキストデータ化するとともに、専用検索システムを構築し、対象史料群のデータを活用可能な状態へと処理する。 2024~25年度 上記のデータによって、17世紀中部九州地域における気象災害の長期的傾向、気象災害・経営破綻・飢饉・疫病の構造的関連性などを把握する。さらに、17世紀の気象災害の直接的被害とそれを要因とした経営破綻・飢饉・疫病が集中する時期を把握し、当該時期を対象に、災害・飢饉・疫病状況に藩と地域社会そして幕府がどのように対応して社会秩序と幕藩権力との関係が変容していくのかを分析する。 2026年度 補足的な史料のテキストデータ化・キーワード検索を重ねながら、成果を単著として取りまとめ、作成したテキストデータを社会の文化的共通資源として公開する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和5年度再学習データ制作の契約の範囲で支出し、4千円次年度使用額が生じた。引き続き、再学習データの制作に使用する。
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