研究課題/領域番号 |
23K00857
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研究機関 | 園田学園女子大学 |
研究代表者 |
大江 篤 園田学園女子大学, 経営学部, 教授 (10289051)
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研究分担者 |
赤井 孝史 園田学園女子大学, 公私立大学の部局等, 教授 (40319851)
久禮 旦雄 京都産業大学, 法学部, 准教授 (50726990)
佐々木 聡 金沢学院大学, 文学部, 准教授 (60704963)
高田 宗平 東京学芸大学, 教育学部, 研究員 (80597188)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 怪異 / 亀卜 / 祥瑞災異説 / 天人相関思想 / 鈴鹿家宮廷史料 / 伴信友 / 平田篤胤 / 対馬サンゾーロー祭 |
研究実績の概要 |
本研究では、中国の亀卜をめぐる知識と技術の日本社会における展開を、近世の亀卜に関する新史料に着目して明らかにすることを目的としている。今年度は、これまで総合的な調査が行われていない近世の亀卜関係文献を収集・整理するとともに、現在、亀卜の形式を残す長崎県対馬市豆酘のサンゾーロー祭の現地調査を実施した。 近世の亀卜関係文献として、①8月に神宮文庫において、薗田守良「鹿亀雑録」(文政9/1826)の原本及び写本の調査を行った。この文献の序には、学友の荒木田末壽が江戸で伴信友「正卜考」の草稿)を書抜いて持ち帰ったものを読み、触発されてしるされたとある。②9月に前年度までに確認調査を終えた鈴鹿且久家文書の追加調査を行い大嘗祭関係の文書、卜甲等の目録を作成した。③12月に国立歴史民俗博物館の所蔵されている平田篤胤関係資料の調査を実施した。伴信友「正卜考」の写本への平田篤胤の書き込みを確認するとともに、平田篤胤「正卜考異見」の存在を確認することができた。 また、2024年2月10日から12日に長崎県対馬市のフィールドワークを実施した。 【10日】・志多留貝塚(卜甲出土地)・和多都美神社(亀甲石、社家長岡氏が亀卜を行った斎庭)・太祝詞神社(雷命の墓)・雷命神社(阿連・亀卜発祥の地)等【11日】・豆酘周辺(多久頭魂神社、八丁角)・厳原(対馬博物館)【12日】・対馬博物館(藤家文書、卜甲を調査)・豆酘(サンゾーロー祭)…4年ぶりに実施。 以上の調査から、これまで亀卜研究の基本資料とされてきた伴信友「正卜考」をめぐって、薗田守良や平田篤胤が批判的研究を行っており、19世紀に亀卜についての関心が高まっていたことを知ることができた。また、対馬藩総宮司職の藤家の文書に亀卜に関するものがあることが明らかとなった。 2024年3月に東アジア恠異学会第147回定例研究会において、今年度の調査・研究についての報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、伴信友「正卜考」に関連して著された、薗田守良「鹿亀雑録」(神宮文庫蔵、原本、写本)、平田篤胤「正卜考異見」(国立歴史民俗博物館蔵、草稿)を調査することができた。薗田守良「鹿亀雑録」については、複写することができず分担して筆写を行った。しかしながら、序文、目次等部分的な筆写に止まっており、調査方法について検討する必要がある。国立歴史博物館の所蔵されている平田篤胤関係資料については、目録から関係資料を検索し、調査、複写した。平田篤胤「正卜考異見」は、篤胤が「正卜考」についてメモを記したものであり、解読を進めていく必要がある。近世において亀卜を考証した3者の資料について、現状を把握することができ、今後の調査・研究の指針を検討することができた。 また、明治時代初期まで亀卜が実施されていた対馬について、関係する場所の踏査を実施できた。そして、調査で豆酘の集落を訪れるまで、行事の実施の可否(新型コロナウイルス感染症の影響、卜部家の事情)が不明であったが、4年ぶりに実施されることが現地で判明し、旧暦1月3日のサンゾーロー祭を調査することができた。研究代表の大江は、1992年に卜部氏の末裔、岩佐教治氏に聞き取りを行い、2005年の祭りを実見している。今回は、岩佐氏を引き継いだ土脇隆博氏が卜部をつとめ、行事の内容、亀卜の所作など。行事の変遷を確認することができた。 また、対馬博物館において、「藤家文書(柚谷家旧蔵)」の亀卜関係資料15点の調査を実施することができた。「藤家文書は…対馬藩総宮司職を世襲し、厳原八幡宮宮司家でもあった藤家に伝来していたとされる古文書群である」。これまで近世対馬の亀卜の研究で取り上げられることのなかったもので、古文書群の分析から対馬藩総宮司職藤家について検討したうえで、当該資料を考察していく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今年度、調査した近世国学者による亀卜関係文献について研究を進める。伴信友「正卜考」に引用されている近世対馬を中心とする文献を調査し、藤家文書との関係を検討していく。 また、吉田卜部家の文献を中心に、宮廷祭祀における卜占について調査を実施する。現在、亀卜は大嘗祭における斎田点定の儀のみで執行されており、近世にその執行者であった吉田神社の社家鈴鹿家(京都)の文書と吉田卜部家の史料が基本となる。しかしながら、鈴鹿家の関連史料は各所に分散して保存されており、その全体像は明らかではない。近年、大江・久禮・赤井が調査を進めている新出の京都の鈴鹿且久家文書については、明和元(1764)年(後桜町天皇)、明和八(1771)年(後桃園天皇)、嘉永元(1848)年(孝明天皇)の大嘗会に関するものであることが明らかとなったが、皇学館大学に寄託されている鈴鹿家史料との関係について調査を進めていく必要がある。さらに詳細調査、分析を行う。さらに、近世・近代の大嘗祭関係史料における亀卜の記録を整理し、検討を行う。 なお、佐々木は、中国の出土卜甲に関する中国文献を翻訳し、研究状況を調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
調査対象の資料の複写費を計上していたが、撮影不可の資料があり、閲覧筆写しかできなかったため。
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