研究課題/領域番号 |
23K00881
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
宮本 隆史 大阪大学, 大学院人文学研究科(外国学専攻、日本学専攻), 講師 (20755508)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 南アジア近代史 / 刑罰 / 流刑 / 歴史叙述 / 歴史認識 |
研究実績の概要 |
2023年度は、19世紀後半のアンダマーンと海峡植民地の流刑制度関係資料を読解し解釈する作業を中心的に行なった。アンダマーンに関しては、当該流刑地の象徴的建造物とみなされることになる独居房監獄(Cellular Jail)が建設された、1890年代から1900年代の年次報告の原本を、本年度前半に入手することができた。現在のところ、この資料の分析に従事している。また海峡植民地に関しては、インド省管轄時期の『海峡植民地資料』(Straits Settlements Records)と、植民地省管轄時期の『植民地省資料273』(Colonial Office Records 273)に収録されている、流刑監獄および流刑終了後の監獄に関係する資料を整理し読解している。また、流刑囚の送り出し地としてのインド亜大陸の監獄制度に関係する監獄規則と報告書を中心とした政府関係資料から、流刑に関係する記述を読解している。 現地語資料としては、本年度はウルドゥー語資料の読解に注力した。特に、アンダマーンに流刑囚として送られた、ムハンマド・ジャアファル・ターネーサリーの著作の読解に力を入れている。ターネーサリーの記述が、いかなる参照のネットワークの中でなされ、さらに彼のテクストが現在にいたるまでいかに複製され参照されてきたのかを分析している。 独立後の歴史叙述の中で流刑がいかに表象されたかに関する考察の一環としては、今年度は流刑囚送り出し監獄のひとつがあったベンガルのコルカタと、流刑監獄があったアンダマーンのポートブレアを訪れ、これらの監獄が現在どのように展示されているかを観察した。コルカタのアリープル博物館は、アリープル監獄の獄舎を博物館として使っている。一方、ポートブレアのセルラー・ジェイル博物館もまた、流刑監獄の獄舎を活用している。これらの監獄博物館における流刑の歴史表象を観察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定どおり、英領インドの流刑地であったアンダマーンと海峡植民地(ペナン、シンガポール、マラッカ)の、流刑制度に関係する一次資料の分析を行なった。現地語資料の分析も行なっており、その学術編集版の作成準備も進めている。また、インドの監獄博物館における流刑制度の表象に関する現地調査も開始することができた。 英領インドにおける流刑制度史の解明という本研究のひとつめの課題のために、アンダマーン報告書のうち、独居房監獄の建設期という重要な時期に関わるものを、原本で入手することができた。また、海峡植民地に関する資料の一部の複製もすでに手元にそろえている。これらの分析を進めることができた。 本研究のふたつめの課題である、現地語資料の分析については、19世紀後半にウルドゥー語で流刑体験を書き残したムハンマド・ジャアファル・ターネーサリーのテクストの、書誌学的調査を進めている。特に彼の2冊目の著作である『驚異の歴史(Tawarikh-e ‘Ajib)』は、これまでに幾度も再版が重ねられているため、その再版の歴史的文脈を考察している。 本研究の三つ目の課題としての、流刑地の歴史叙述の分析については、コルカタのアリープル博物館とポートブレアのセルラー・ジェイル博物館の展示分析を開始した。これらの博物館の展示は今後変化していくことが予想されるため、継続的な観察を行ないたいと考えている。 成果としては、日本南アジア学会全国大会で英領インドの監獄史に関する発表を行なった。また、共著書にてターネーサリーのテクストの現時点での分析の成果を発表した。さらに、そのより詳細な考察は、2023年12月に大阪大学で開催された国際会議で報告した。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、引き続き資料収集をおこないその分析を進める。文書館等が提供するオンライン複写サービスなども活用して効率的な資料収集を進める。 流刑制度史に関しては、19世紀前半と20世紀前半について収集資料を充実させる予定である。これら一次資料の読解を通じて、英領インドの流刑制度史の基本的事実を整理する。制度史に関しては、初年度の成果をまとめる学術論文を執筆中である。 現地語資料に関しては、ターネーサリーによるウルドゥー語テクストの分析を深めるとともに、その後の時期にアンダマーンに送られたいわゆる「政治犯」などによるテクストの資料調査を行なう。本論文の対象としている、ウルドゥー語とヒンディー語の資料を主に収集する。また、ターネーサリーによるテクストに関しては、ウルドゥー語の学術編集版を作成する作業を進めつつ、著作の一部の解題・翻訳(日本語・英語)を発表する。 流刑の歴史表象に関しては、上記のウルドゥー語・ヒンディー語のテクストが、現在までにいかなる文脈で再版され参照されてきたのかを明らかにする作業をひとつの軸として進める。さらに、2023年度に開始することができた、監獄博物館における表象の分析を継続してさらに進める。監獄博物館における流刑の歴史表象については、学会発表を期して応募中である。さらに、海峡植民地における流刑の記憶を考察するために、マレーシアのペナンでの調査も行ないたい。 上記に加えて、社会的貢献として、ラドクリフ・ブラウン『アンダマーン諸島民』の日本語訳の作業を進めている。この作業のために、ブラウンが参照したリチャード・テンプルをはじめとする、植民地行政官人類学者たちの仕事もあわせて検討する。
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