研究課題/領域番号 |
23K00917
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
槙林 啓介 愛媛大学, アジア古代産業考古学研究センター, 准教授 (50403621)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 連房式登り窯跡 / 倒焔式窯跡 / 窯業考古学 / 陶磁器考古学 / 窯業地形成 |
研究実績の概要 |
愛媛県砥部における近世・近代の砥部焼窯業に関わる遺跡を調査し、窯業地形成の歴史の一端を考古学的に明らかにすることを目的としている。2023年度は、①砥部焼窯業をめぐる生産施設跡(陶石産地跡、陶石水車場跡、窯跡等)の分布調査を行った。砥部町の川登、外山、高尾田、原町、宮内の地区を悉皆的に踏査した。すでに消滅したものも含め、16か所で窯跡を確認した。窯跡は連房式登り窯跡(藤田窯跡、堂成窯跡、宮の瀬窯跡、深田窯跡等)、倒焔式窯跡(竹西窯跡など)とがある。連房式登り窯跡では、胴木間と7室前後の焼成室をもつものと、4室前後のものと規模の異なるものがある。時代は近世と近代とがある。倒焔式窯跡はすべて消滅しており、その構造・規模は不明である。時代は、主に戦後に築窯されたものである。採掘坑跡と水車場跡についても踏査を行った。採掘坑跡は、扇谷採掘坑跡、アリノキ採掘坑跡、宮の瀬窯の近くにある宮の瀬採掘坑跡である。いずれも横坑のもので、奥行きは10m前後であった。水車場跡は河川護岸工事によりほぼ消滅しているが、今回は高市水車場跡を新たに確認した。礫岩により導水路と水車場を構築した砥部ではほかに見られないものである。②各窯跡の基礎的研究では、梅山窯の近代の型紙染付碗110点を調査した。また梅山窯は近代に台湾に輸出をしており、その明細書と先の型紙染付碗との比較を行い、その実態解明を行った。台湾に輸出したものには、華人社会の需要に合わせた碗のサイズや文様のものが選択されていたことが明らかになった。本研究では、地域協働も図っており、遺跡地権者、陶工、窯業等関係者、教育機関と連携して成果を共有する活動も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画のように、①窯跡等の踏査、②各窯跡の実態解明について、それぞれ順調な調査を進める環境を整えたことが大きな要因である。①の踏査では、研究協力者を含め、調査体制を整えた。広範囲に踏査を行うにあたって、地域の住民・自治会への協力を仰ぎながら、また地域の郷土史家にも同行をいただくなど、多くの協力を得た。②の陶磁器調査では、砥部焼に関わる考古資料はまだ整理されておらず、まず分析可能な資料の現状把握を行い、そのなかから実施可能な資料を選別した。こうした順当な準備ができたことは、今後の研究においても、計画的・段階的に進められることにつながる。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに窯跡の踏査は、砥部町の対象地域の踏査をほぼ終えている。今後は、本科研実施前から行っている踏査成果を含めた、踏査全体の総合的な報告書を作成する。近世・近代における砥部焼の窯は、連房式登り窯であることは分かっているが、その詳細や系譜についてはまったく未解明の分野である。報告書作成とともに、窯跡の現況とともに、窯の所在、立地、構造、規模、時代などの分析に入りたい。また、踏査で残存状況の良い遺跡も把握できており、各窯跡の詳細な調査を行う段階にも移行したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度の研究計画のうち踏査等については予算を使途しながら、順調に遂行することができた。いっぽうで、各窯跡の調査については次年度以降に重点的に行うために、当初予算を次年度と併せて使用するよう再計画したことによる。
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