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2023 年度 実施状況報告書

古代における渡来系文化の伝播・拡散・定着プロセスの研究

研究課題

研究課題/領域番号 23K00920
研究機関滋賀県立大学

研究代表者

稲田 宇大 (金宇大)  滋賀県立大学, 人間文化学部, 准教授 (20748058)

研究分担者 佐藤 亜聖  滋賀県立大学, 人間文化学部, 教授 (40321947)
研究期間 (年度) 2023-04-01 – 2027-03-31
キーワード考古学 / 渡来系文化 / 副葬品 / 金工品 / 装飾付大刀 / 横穴式石室 / 群集墳
研究実績の概要

令和5年度は、主に装飾付大刀を中心とした金工品研究を大きく進めることができた。まず、日本国内で実見観察が可能な獅噛環頭大刀の熟覧調査を一通り終了し、本格的検討を進めていくための土台を固めた。さらに、長年取り組んできた単龍環頭大刀の系列別の編年検討を自分なりに固めて、これを公表した。この分析によって、日本列島における単龍環頭大刀の継続的製作・配布を実現し得た要素として、大加耶からの工人渡来のほかに百済系工人の断続的な渡来・関与があった可能性を、従来より踏み込んで議論することが可能となった。
加えて、韓国において出土地が唯一明確な単龍環頭大刀である公州武寧王陵刀の直接的類例といえる資料(愛知県美術館所蔵木村定三コレクションM318刀)の詳細な検討を実施、朝鮮半島における単龍環頭大刀の生産状況に関する新たな知見を広げるとともに、日本列島の初期単龍環頭大刀の系譜的多様性に関する予察を得た。
そのほか、古墳時代の前半期における非金属装の鉄製環頭大刀の系譜を整理し、その舶載・流通と倭王権の政治的意図について検討した。国内の素環頭大刀については、継続的に資料調査を進めており、さらなる分析を継続する予定である。
こうした倭王権主導の渡来系文化の導入と政治的利用についての研究を進める一方で、列島に受容された渡来系文化の地方拡散の一様相を探るべく、滋賀県彦根市に所在する荒神山古墳群の調査、具体的には古墳群中で最大規模の横穴式石室をもつA支群1号墳の発掘調査を実施した。しかし、石室の詳細な構造や副葬品の発見を期待したが、調査を実施したところ、中世以降に墳丘を改変してつくられた礎石建物をはじめとする遺構を検出するなど、古墳時代以後における複雑な再利用の状況が明らかとなった。古墳時代における渡来系文化の拡散を考える上で必要となる石室の詳細情報については、令和6年度調査で本格的に精査することとした。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

上記のように、装飾付大刀に関する研究は順調である。資料調査のコンスタントな実施とともに、成果の文章化も順次進めており、刀種別の各論の総合的な整理を視野に、検討を継続していく予定である。さらに今年度は古墳出土の耳飾についての分析もおこない、研究発表を試みた。装飾付大刀以外の副葬品の分析にも、都度取り組んでいく。
一方で、もう一つの軸としている荒神山古墳群の発掘調査については、年度ごとに一つの古墳を掘り進めていく予定であったが、実際に調査を実施してみたところ、古墳時代以後の状況に関する想定外の成果が多く、古墳そのものの調査がなかなか進展しないという状況となった。そのため、A支群1号墳の調査は次年度以降も継続することとなり、渡来系石室墳の調査に至るまでにはかなりの時間を要する見込みである。その点から当初の研究計画に照らすと全体的な進捗状況としては「やや遅れている」とした。ただし、荒神山古墳群の発掘調査については、本研究で究明を目指す古墳そのものの評価だけでなく、その後の再利用も含めた古墳をめぐる履歴の全体像を紐解いて地域史の一端を明らかにすることが重要であり、性急な発掘調査に及ぶわけにはいかない。本研究の遂行期間にとらわれず、腰を据えた調査計画を練り直す必要である。

今後の研究の推進方策

令和6年度は、引き続き装飾付大刀を対象とした副葬品研究と、荒神山古墳群をフィールドとした発掘調査を軸とするケーススタディを継続する。
前者について、まずは一通りの実見調査を終えた獅噛環頭大刀に関する分析の論文化を試みる。これに加えて、双龍環頭大刀に関する検討にも着手する。特に、これまで実施してきた京都府湯舟坂2号墳出土双龍環頭大刀をはじめとする丹後地域出土重要資料の詳細調査の成果を軸に、単龍環頭大刀と双龍環頭大刀の製作工人集団間の関係に焦点をあてた研究を進める。
後者の荒神山古墳群の発掘調査については、A支群1号墳の横穴式石室の本格的な調査を実施する。これに加えて、今夏には愛知県幸田町の青塚古墳の発掘調査を予定している。青塚古墳は金銅製龍文透彫帯金具が出土した初期横穴式石室を擁することで著名な古墳である。こうした発掘調査に基づく地域別の検討を蓄積しつつ、渡来系の文化や人の実際の移動を追っていく。

次年度使用額が生じた理由

研究初年度に刊行する予定であった過去の荒神山古墳群の分布・測量調査報告書の作成が終わらず、次年度以降に回したため、研究費が一部余った。繰り越した助成金については、引き続き上記報告書の作成作業を進め、その刊行費用にあてる予定である。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2024 2023

すべて 雑誌論文 (3件) (うちオープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)

  • [雑誌論文] 木村定三コレクションM318単龍環頭大刀の検討2―保存処理後の再調査―2024

    • 著者名/発表者名
      金宇大
    • 雑誌名

      愛知県美術館研究紀要 木村定三コレクション編

      巻: 30 ページ: 144-150

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] 古墳時代における鉄製環頭大刀把頭意匠の「復古」的採用の可能性2023

    • 著者名/発表者名
      金宇大
    • 雑誌名

      器物の「伝世・長期保有」「復古再生」の実証的研究と倭における王権の形成・維持

      巻: - ページ: 91-108

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] 単龍・単鳳環頭大刀生産の拡大と外来技術工人2023

    • 著者名/発表者名
      金宇大
    • 雑誌名

      古代武器研究

      巻: 18 ページ: 51-66

  • [学会発表] 単龍・単鳳環頭大刀の成立と高島市北牧野2号墳出土単龍環頭大刀の評価2024

    • 著者名/発表者名
      金宇大
    • 学会等名
      考古学研究会関西例会第241回研究会(滋賀例会)
  • [学会発表] 古代日本の金属工芸品製作技術研究の事例と動向2023

    • 著者名/発表者名
      金宇大
    • 学会等名
      古代東アジア金属工芸品の製作技術復元
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 古墳時代後期における垂飾付耳飾および耳環の様相2023

    • 著者名/発表者名
      金宇大
    • 学会等名
      第26回中国四国前方後円墳研究会

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公開日: 2024-12-25  

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