研究課題/領域番号 |
23K00945
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
加藤 義和 名古屋大学, 環境学研究科, 研究員 (50588241)
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研究分担者 |
佐野 雅規 国立歴史民俗博物館, 研究部, 特任准教授 (60584901)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 年輪セルロース抽出 / 年輪年代学 / アカガシ亜属 / 出土材 / 年代決定 |
研究実績の概要 |
弥生時代前期の出土材に適用可能な年輪セルロース酸素同位体比の精緻なクロノロジーを構築することを目指して、小樋尻遺跡(京都府城陽市)から出土した大量の自然木(年輪数は数十年から100年程度)を対象に、年輪セルロース酸素同位体比の変動パターンを明らかにした。 小樋尻遺跡から出土した自然木は、その出土状況と年輪数から、弥生前期の年代を含む資料も数多く含まれていることが期待された。そこで、京都府埋蔵文化財調査研究センターの協力を得て、大量の自然木から測定用の試料を追加採集した。 これらの試料を木材組織に基づいて樹種同定したところ、その大半はアカガシ亜属であることが判明した。アカガシ亜属は日本の暖帯照葉樹林の主要な構成要素を成す高木の常緑広葉樹であり、日本各地の遺跡から自然木や木製品、未成品や原材料として数多く出土しているが、年輪境界の判別が非常に難しい場合が多い。本課題においては、樹木年輪の酸素同位体比を正しく1年単位で測定することが必須である。そこで、アカガシ亜属の年輪境界を確実に判別できる手法の開発を行った。他の樹種においてはセルロース薄板の作成法として広く適用されていた「板ごと抽出法」に改良を加え、「従来よりも薄いセルロース薄板の作成」「透過光による年輪境界の観察」を行うことにより、年輪境界を正しく判別でき、年代推定も行えることが証明できた。 その後、今回開発した手法を適用することにより、弥生時代前期の年代を含むアカガシ亜属が数点、見つかった。これらの試料は、本課題が目指すクロノロジーに直接、組み込むことができる。また、年代推定が可能な樹種が増えたことで、より精緻なクロノロジーを作成できる可能性が高まった。さらに今回の成果は、本課題の目的に留まらず、様々な時代の木質遺物の考古学に大いに貢献するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、弥生時代前期の木材が多く含まれていると予想された小樋尻遺跡の自然木を集中的に分析し、年輪セルロース酸素同位体比の変動パターンを明らかにした。「小樋尻遺跡の自然木から採取した試料は大半(およそ3分の2)がアカガシ亜属で、年輪境界が不明瞭である」という、本課題の遂行にとって困難な状況は、年輪境界を確実に判別できる手法を開発したことにより、ほぼ解決した。小樋尻遺跡の自然木から採取した全ての試料(約300点)の選別を行って「年輪数が少ない」「組織の腐朽・劣化が激しい」などの理由で年代決定に至らない試料を除いた結果、年代決定が可能な木材はほぼ全て年代決定を行うことができた。その中に、本課題に必要な弥生時代前期の年代を含むアカガシ亜属を数点、発見したことは、大きな進捗である。小樋尻遺跡のその他の試料、および他の遺跡で出土した弥生時代前期のものと予想される木材の入手についても、関係者間での調整が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的を達成するために、2年目にはさらに多量の遺跡出土材を用いて、弥生時代前期における年輪セルロース酸素同位体比の変動パターンを明らかにする。これまでは自然木の分析に集中的に取り組んできた小樋尻遺跡では、弥生時代前期の年代を含むと予想される木製品も出土している。そこで、こうした木製品の年代決定も実施できるよう、関係者間で調整を進め、年輪セルロース酸素同位体比の変動パターンを明らかにする予定である。また、屋敷遺跡(福岡県北九州市)においても弥生時代前期を含む時代の自然木や加工木(矢板、杭など)が大量に出土している。これらの試料についても、関係者と調整の上で貰い受け、年輪セルロース酸素同位体比の変動パターンを明らかにする。こうした取り組みにより、目的のクロノロジーに統合できる試料を発見していく予定である。 弥生前期をカバーする数百年分の年輪を持つ木材の年輪セルロース酸素同位体比の変動パターンはすでに分かっているものの、試料の点数が少なく、クロノロジーとしては貧弱である。そこで今年度は、すでに年代推定に成功した小樋尻遺跡の試料の年輪セルロース酸素同位体比の変動パターンをこの“貧弱な”クロノロジーに統合し、“肉付け”を施すことを試みる。これにより、弥生前期をカバーする信頼性の高いクロノロジーを構築するための効率の良い手法を検討する予定である。 研究代表者が所属する研究室には昨年度、水素同位体比を精度よく測定するための装置が導入され、現在、稼働準備中である。水素同位体比は、樹木年輪の酸素同位体比に残る生理学的な要因(樹齢効果)をオフセットするのに有効であることが分かっている。そこで、2年目には上記の数百年分の年輪を持つ木材の年輪セルロース水素同位体比の測定も試み、より精密なクロノロジーの作成を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は「アカガシ亜属の年輪境界を確実に判別できる手法の開発」という課題に集中して取り組んだため、分析試料は小樋尻遺跡の出土材が主であった。これらの試料については、本課題の計画段階ですでにその大部分を採集済であったため、試料採取及び調査打合せのために必要な旅費は当初の計画よりも少なくなった。また、年輪セルロース酸素同位体比の分析に必要な消耗品についても、試料を念入りに選別して効率よく分析を行ったため、当初の計画よりも少なくなった。来年度は、アカガシ亜属の出土材も測定対象に含められるようになったため、様々な樹種の出土材を大量に測定する予定である。そこで来年度は、次年度使用額および来年度の請求額を合わせ、大量の年輪セルロース試料の作成にかかる試薬、実験器具等の消耗品費、および、分析システムを用いて大量のセルロース試料の同位体比を測定するために必要な反応炉の内容物やセラミック管等の定期的な交換、メンテナンスにかかる費用に充てる計画である。
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