研究実績の概要 |
研究代表者らが過年度研究において開発した技術(特許第7216429号)等を用いて、古典的膠試料の調製を行うため原料確保や加工を進めた。古典的膠製造方法に関する近代以前の文献的記録について、『墨譜』 (李孝美, 宋代)は、蒐蔵家の墨を集録するとともに造墨技術に関して包括的にまとめられた資料である。同書「膠 (一)」 項 には、下処理無しの牛生皮を原料として膠を抽出する方法が書かれている。またこれに対し、「膠二」項には、 剃毛処理を行った牛生皮から膠抽出を行う方法が略述されている。さらに、「鹿角膠一」項には鹿角を原料とした膠の抽出等についても略述されている。『墨經』(伝 晁貫之, 宋代) は墨匠 晁貫之によるとされる資料であり、鹿膠、馬膠、牛膠、鼠膠、犀膠といった材料に関する記述がある。同書には鹿膠(別名 白膠、黄明膠)の調製に関して、原料を米研ぎ汁を用いて下処理後、抽出を行う方法が『神農本草経集注』(陶弘景, 500年頃)を出典として記されている。また同書においても、鹿角膠に次ぐ佳品として牛剃毛生皮由来膠に関する情報が略述されている。研究代表者は各方法の復元実験を行い、近年の従来市販製品にはみられない淡色かつ不光沢といった性状の膠が調整可能であることを明らかにしてきた。この種類の古典的膠は、書画彩色部分剥落止め処置に際しても色や質感の維持において有効である。原料加工処理方法及び抽出方法の効率化を本研究課題において進め、またさらに関連技術の公知化や体制の安定化を図った。
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