研究課題/領域番号 |
23K00960
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研究機関 | 追手門学院大学 |
研究代表者 |
瀧端 真理子 追手門学院大学, 心理学部, 教授 (70330165)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 博物館 / ミュージアム / COVID-19 / 博物館経営 / 寄附 |
研究実績の概要 |
2023年度は寄附金募集の活発なミルウォーキー美術館、リンカーンパーク動物園、シェッド水族館、ロンドン動物学協会、V&A、スコットランド国立博物館、バーミンガム博物館トラストの寄附金獲得戦略を主に求人広告の分析を通じて行った。 英国では館園の運営母体がチャリティである場合、「ギフト・エイド」制度によって、チャリティ側が寄附者の側の源泉徴収分を国に還付請求でき、また寄附者の側にも税制優遇がある。遺贈は「遺言による贈与」の表現が目に付くが、これは英国では遺言書によるチャリティへの寄附が無税であるためである。メンバーシップの上位にはパトロネージがあり、パトロンには様々な特典が付く。幅広い層から寄附を募る姿勢も顕著で、個人が寄附募集のサイトを立ち上げることなども推奨されている。米国ではメンバーシップに会費額に応じた複数タイプが用意され、会費から受け取った物とサービスの価値を減じた後に税控除が適用される。メンバーシップの上位には寄附の要素を強めたドナークラブ等が存在する。遺贈は「プランド・ギビング(計画的遺贈)」として案内され、有価証券、遺産贈与、退職金口座、慈善寄附年金、慈善目的信託、公益先行信託、生命保険等を用いた方法が掲載されている。 寄附金獲得の手法は、米国では営利企業の営業と類似の手法が用いられ、潜在的な寄附者は特定、育成、勧誘され、リピーターへの移行が目指され、そのプロセスはデータベースやソフトウェアで管理されている。英国では寄附金獲得に特化した求人数は少ないが、スコットランド国立美術館、バーミンガム博物館トラスト、スコットランド国立博物館では米国と同様の手法を取っていることが確認できた。 また、COVID-19後の博物館現場を見るため、シカゴ、ミルウォーキー、ロスアンゼルスの館園を訪問、いずれも地域住民の多様性を反映した包摂的な博物館運営を行なっていることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)英米のミュージアムでの寄附金獲得戦略について、その営業的手法を中心に報告を行った。具体的には全日本博物館学会で「求人情報から見る米国ミュージアムの寄附金獲得戦略」(7月)、日本社会教育学会で「求人情報から見る英国ミュージアムの寄附金獲得戦略」(9月)、第10回水族館シンポジウムでは「英米水族館の寄附金獲得戦略」(12月)を発表した。 2)「求人情報から見る英国ミュージアムの寄附金獲得戦略(1)」を『博物館学芸員課程年報Musa』38号に掲載した。 3)2024年2月に、米国の以下の各館園を訪問、展示内容や来館者動向についての参与観察を行った。シカゴ現代美術館、オリエンタル・インスティチュート、ハーレー・ダビッドソン博物館、ミルウォーキー美術館、ミルウォーキー公立博物館、リンカーンパーク動物園、シカゴ美術館、ザ・ブロード、エルプエブロ州立歴史公園、ロスアンゼルス・カウンティ美術館、ハンティントン、ロスアンゼルス現代美術館、アーツディストリクト、オートレー・ミュージアム。シカゴ、ミルウォーキー、ロスアンゼルスの人口構成を反映し、さまざまな肌の色、ルーツを持つ作家及び来館者が自分たちの館園と感じることの出来る工夫がなされていること、また実際に来館者として楽しんでいる様子を見てとることができた。また、ロスアンゼルス・カウンティ美術館では寄附ボードの掲示とともに、大規模な新館建設工事が行われている現場を確認できた。 4)COVID-19期の年次報告書の分析が途中であるため、(2)おおむね順調の区分を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
1)2024年度は8月に、英国のミュージアム及びミュージアムを取り巻く社会がCOVID-19以降、どのように変化したのかを現地にて参与観察する。具体的には、寄附金募集関係の求人情報を2023 年度に確認できたスコットランド国立美術館、スコットランド国立博物館、バーミンガム博物館トラストの各館を訪問の予定である。また、福祉的活動で知られ、寄附募集も盛んなダリッチ美術館、寄附金募集の盛んなロンドン動物園、ホワイトチャペル・ギャラリー等を見学の予定である。 2)これまで寄附金募集の方法を中心に調査してきた英米の各館園の年次報告書のうち、COVID-19期の2020,2021,2022年度分を分析し、9月開催の日本社会教育学会自由研究発表で報告する予定である。なお、6月開催の全日本博物館学会では、「スコットランド国立博物館及びバーミンガム博物館トラストにおける寄附金募集関係求人情報の分析」で研究発表を申込済みである。 3)2025年3月末までに、2)で行った年次報告書の分析を文章化して、『博物館学芸員課程年報Musa』38号に掲載の予定である。 4)2023年度のスコットランド国立博物館、バーミンガム博物館トラストの求人情報分析中に目に留まった国家遺産法(スコットランド、1985年)、財務制限にかかわるスコットランド政府制定の枠組み文書(Framework Document)、英国歳入税官庁(HMRC) のCultural Gifts Scheme、アーツ・カウンシル・イングランド、V&A購入助成基金等について、調査を行う。これらについては、2024-25年度の2年間にまたがる調査・分析を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2024年2月に米国での調査を行なう際、現地交通費を確保しておいたが、現地では飛行機と列車(アムトラック)での移動以外は全て公共交通機関を利用し、現地交通費を節約できたため、結果的に次年度使用額が生じた。 この次年度使用額は、2024年8月に予定している英国での調査の際に、円安の影響で円換算では高額になる交通費や現地での参考資料(書籍等)の購入費用に充てる予定である。
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