研究課題/領域番号 |
23K01020
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
松前 もゆる 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (90549619)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 移動 / 場所 / 社会関係 / 環境との絡まり合い / ブルガリア |
研究実績の概要 |
「移動にともなう社会関係の再編および環境との関係性構築」という本研究課題の進展に向け、今年度はまず、研究代表者がこれまでに実施した人々の移動に関する調査の内容を精査しつつ、移動にともなう社会関係の再編について文献調査を含む調査研究を進めた。さらに、研究代表者にとっては新しい課題である、人間と環境とをどう捉え、どう描くかについて、文献調査や研究交流を通じて研究の基礎を固めることに力を注いだ。 具体的には、7月にスラヴ・バルカン研究を専門とする寺島憲治氏を講師として招聘し、民衆歌謡や回想録等からみる人々の移動についてご講演いただき、歴史的な視座からバルカン地域における移動とそれにともなう社会関係の再編を検討する研究会を開催した。さらに1月には、『不穏な熱帯』(河出書房新社)の著者、里見龍樹氏を迎え、同書の内容に即しつつこれまでの研究成果をお話しいただいて、研究会参加者とともに、人間と自然(環境)との関わりを人類学的にどう捉えうるかとともに、それをどのように書くか(形にするか)について意見交換をおこなった。これらの研究交流から、本研究課題にとって重要な示唆を得ることができた。 また、2023年9月には、本研究課題と関連する科研費プロジェクト(「ロシア・中東欧のエコクリティシズム:スラヴ文学と環境問題の諸相」課題番号:21H00518)によるシンポジウム「スラヴ文化の森:環境批評の視点から」に参加し、「ブルガリアの森をめぐる人びとの語りに関する試論」と題して報告をおこなった。これについては、シンポジウムの際のコメントや質問をふまえ、また、その後に実施したブルガリアでの聞きとり調査と文献調査の内容を加えて、現在論考を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題「移動にともなう社会関係の再編および環境との関係性構築」のうち、移動にともなう社会関係の再編に関しては、研究代表者はこれまでもブルガリア村落部から他のEU諸国への移動について聞きとり調査を実施しており、一定の成果が得られている。ただし近年、上述と同様の移動が続けられる一方で、様々な理由からブルガリアへの帰国を選択する人たちも目立つことから、あらためて聞きとりをおこなっている。これまでに実施した調査の内容もふまえつつ、新たな移動(再移動)にともなう社会関係の再編について検討していく予定である。 他方、人間と環境との関わりについてフィールドワークからどのようにアプローチするか、それを人類学的にどう捉え、どのように書くか(形にするか)は、研究代表者にとって新たに取り組む課題であり、現在までのところ、移動や再移動に関連して聞きとりを続けるとともに、文献調査や研究交流によって研究の基礎を固めることに注力してきた。これについてはおおむね順調に進んでいる。そして、予備的な調査として、ブルガリア村落部出身の人々に移動(再移動)後の生活の様相(森との関わり、動物との関わり、野菜栽培や庭づくり、食生活等)について具体的に聞きとりをはじめたところであり、今後はより積極的にフィールドワークを実施するとともに、さらなる文献調査、研究交流を計画している。
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今後の研究の推進方策 |
すでに述べたこととも重なるが、2024年度以降、移動(再移動)にともなう社会関係の再編と環境との関係性構築について、ブルガリア村落部および移動先のイタリア等でフィールドワークを積極的に実施する。さらに、これまでに研究代表者が実施した移動に関する調査や文献調査の内容もあわせ、一定の(現時点での)形にまとめ、それをブルガリアの研究協力者および研究者、ならびにヨーロッパや日本の人類学者らと学会発表あるいは論文等をとおして共有する予定である。まず、2024年7月に開催されるヨーロッパ社会人類学会(EASA)の大会に参加予定であり、そこでブルガリア出身者の移動と再移動について発表(採択済み)をおこなう。こうした機会に意見交換や議論を重ねることで、より一層の研究推進をはかりたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、研究代表者がこれまでに実施した調査の内容を精査し、また、人間と環境とをどう捉え、どう描くかについて研究の基礎を固めることに注力したため、文献調査と学会・研究会等での研究交流が中心となった。さらに、コロナ禍で実施が延期されていた他の研究プロジェクトによる現地調査を優先的に実施した関係から、本研究課題として国外でのフィールドワークを実施するに至らなかった。 2024年度以降、ブルガリア村落部および人々の移動先であるイタリア等で本研究課題としての調査を積極的に実施することで、当初予算額を使用する見込みである。
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