研究課題/領域番号 |
23K01044
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
橘 健一 立命館大学, 政策科学部, 非常勤講師 (30401425)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 長編叙事詩 / シャーマニズム / アニミズム / トランスクリプション / 翻訳 |
研究実績の概要 |
ネパール先住民チェパンの神話やシャーマニズム的、アニミズム的語りで用いられる「夢言語」を追求する本研究では、ネパールにおける資料収集のためのフィールドワークを9月、2・3月に実施した。9月のフィールドワークでは、シャーマニズムやアニミズムに関する語りに加え、ヤムイモ採集に関わる実践とナラティブを記録した。そこからヤムイモとチェパンの関係についての生態学的、存在論的な分析を進め、口頭発表をおこなった。さらにこれまで概略しか理解できていなかった数日間に及ぶ長編叙事詩の吟唱を、現地の語り部の協力を得て、記録することができた。それにより、長編叙事詩が吟じられる際に用いられる言語が、語り部の暮らす地域の方言ではなく、語り部の祖先の移住元とされる東部地域のものであることが確認でき、長編叙事詩が東部地域から継承されてきたことを明らかにできた。それ以外にチェパン語の方言の違いについても聞き取り調査を実施した。2,3月のフィールドワークでは、野鳥のトリモチ猟に関するナラティブ、ヤマネコやシカなど野生動物の捕獲に関するナラティブなどを記録した。また、長編叙事詩の語り部が、従来6月から9月の雨期にしか慣習的に許されなかった吟唱に応じたため、9月の録音した吟唱を修正したものと、その他3つの長編叙事詩の吟唱を収録することができた。 9月に蒐集した録音・録画資料(シャーマンの魂が行き来する世界や動植物に関わる説話、魂を食らうトラに関するナラティブ、長編叙事詩の一部)については、研究協力者とネパール先住民チェパンの現地協力者とともに、チェパン語の発音記号表記からなるトランスクリプションを作成し、さらにネパール語への翻訳をおこなった。その後、研究協力者とネパールで面会し、これまで作成したヤムイモに関する資料の確認作業と、2024年度の長編叙事詩のトランスクリプションと翻訳、出版に向けた議論をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ネパール先住民チェパンの居住地域は、ネパールのチトワン郡、マクワンプール郡、ダーディン郡、ゴルカ郡を中心とする4郡の中間山地だが、2023年度はチトワン郡の西部と東部でフィールドワークを実施し、比較研究を進める計画を立てた。研究代表者はチトワン郡西部、研究協力者は東部地域を担当し、代表者は西部の中央、協力者は東部地域の南でそれぞれが当該地域でフィールドワークを実施し、資料を収集することができた。また、チトワン郡西部の極西のシャーマンが、西部中央とは異なる宗教的な実践を現在でも続けているという情報を得て、代表者はそのシャーマンと面会し、インタビューと儀礼の際に語られる文言を収録することもできた。しかしながら、3月に当該のシャーマンが実施した祖先霊儀礼を、連絡の不調により、観察する機会を逃すことになった。2023年度は、以上のように、チトワン郡の東部・西部・極西部の資料を、その儀礼に関するものを除き、概ね順調に蒐集できている。9月に収録した長編叙事詩と説話は、言語学者である研究協力者と現地の先住民協力者との協業により、すでにトランスクリプションと翻訳をおこなった。さらに9月に収録した長編叙事詩を中心に、トランスクリプションと翻訳を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、研究協力者はマクワンプール郡、研究代表者はダーディン郡とナワルパラシ郡でフィールドワークを実施する計画を立てている。しかしながら、2023年度に吟唱に応じたチトワン郡西部の語り部が、収録していない長編叙事詩が4篇ほど残っているとするため、研究代表者は協力者と討議し、本研究にとって重要な位置を占めるその収録を優先し、ダーディン・ナワルパラシ郡の調査は、時間的な余裕を探して実施することとした。また、昨年度に、代表者はネパールで2回のフィールドワークを実施したが、本年度は予算が不足するため、1回とする。申請時には、長編叙事詩の収録を長編叙事詩が吟唱される雨期(日本の夏期)に実施することを考えていたが、語り部が乾期(秋期・冬期・春期)の吟唱にも応じたため、2023年度後期に続き、2025年の道路事情の良好な冬期・春期にフィールドワークを実施する。フィールドワーク実施以外の期間は、引き続き、現地の先住民協力者に長編叙事詩を含めた録音資料のトランスクリプションと翻訳を依頼し、言語学者である研究協力者がそれを監修し、さらに研究代表者がその成果をチェックしつつ、英語と日本語への翻訳を進め、協力者と議論しつつ、言語学的、存在論的分析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度末に国外出張を実施したが、そのための予算使用手続きが2023年度内にできなかったため、次年度使用額が生じている。実質的には、当該出張による予算使用により、次年度使用額は生じていない。
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