研究課題/領域番号 |
23K01059
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
長谷川 貴陽史 東京都立大学, 法学政治学研究科, 教授 (20374176)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 移民 / 難民 / 社会的包摂 / 社会的排除 / 市民社会 |
研究実績の概要 |
本研究は、社会学における包摂と排除の議論を再考し、社会システムに段階的に包摂ないし排除される外国人の境遇を把握し、包摂を可能にする日本の法制度のありかたを検討する。また、本研究の直近の目的は、日本における外国人の包摂と排除の現状を、正規滞在者(永住者、中長期滞在者、短期滞在者)、非正規滞在者等の区別に即して観察し、包摂と排除をめぐる議論を豊饒化し、現実を説明する能力の高い社会学理論を構築することにある。 今年度の成果として、英語論文を公表した(Kiyoshi Hasegawa, "Inclusion and Exclusion of Immigrants and Refugees in Japan: A Preliminary Study," Japanese Yearbook of International Law, Volume 66 (2023) pp.212-244.(2024年2月))。 本論考は国際法協会日本支部の英文年鑑に公表されたものであり、既発表の日本語論文「日本における移民・難民の包摂と排除」広渡清吾・大西楠テア(編)『移動と帰属の法理論』岩波書店99-121頁(2022年8月)に基づき、それをさらに深化させたものである。 論考前半では、日本における移民・難民の排除の実態について説明し、後半では難民関連訴訟における下級裁判所の裁判例の中に、難民の包摂の契機を読み取っている。その上で、それらを踏まえて、論考末尾で包摂に向けた改善策を述べ、また包摂に向けた理念を構想した。 また、このほかに社会的包摂と排除に関わる理論的探究を含む日本語論文を2本公表した。 これらの論文は、基盤研究(C)「日本における移民・難民の包摂と排除に関する法社会学的研究」(20K01244)と本基盤研究(C)(23K01059)による研究成果とを統合して得られたものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展していると言える。なぜなら、上述したように、これまでの成果を英語論文として公表し、国際的に発信できたからである(Kiyoshi Hasegawa, "Inclusion and Exclusion of Immigrants and Refugees in Japan: A Preliminary Study," Japanese Yearbook of International Law, Volume 66 (2023) pp.212-244. (2024年2月))。 同論考は、日本における移民・難民の排除の実態について説明し(法務大臣の裁量権の広汎さ、技能実習生に対する処遇、被退去強制者に対する処遇、難民認定の少なさ)、後半では難民関連訴訟における下級裁判所の裁判例の中に、難民の包摂の契機を読み取っている(裁判所によるUNHCRハンドブックの参照や引用など)。その上で、それらを踏まえて、論考末尾で包摂に向けた改善策を述べ(入管法における不確定概念の具体化・明確化、技能実習制度の廃止、行政手続法や行政不服審査法の適用除外の見直し、退去強制令書による収容に期間の定めを置く、収容令書の発付に裁判所が関与する仕組みを作る、収容施設の改善など)、同時に、包摂に向けた理念を構想した(外国人の社会統合を図る「同一化志向」ではなく、理解し合えぬまま共存する「了解志向」)。 また、今年度は1年目であり、主として移民・難民や包摂と排除に関する国内外の文献を収集するとともに、2年目以降における社会調査の準備を行う期間である。この点について付言すれば、移民・難民については十分な文献を収集することができており、社会調査についても、ネット調査の利用については準備を進めることができている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の直接的な目的は、上述したように、日本における外国人の包摂と排除の現状を、正規滞在者(永住者、中長期滞在者、短期滞在者)、非正規滞在者等の区別に即して観察し、包摂と排除をめぐる議論を豊饒化し、現実を説明する能力の高い社会学理論を構築することにある。 そのために1年目には、主として移民・難民や包摂と排除に関する国内外の文献を収集すると同時に、2年目以降における社会調査の準備を行ってきた。 そこで2年目には、1年目に引き続き、移民・難民及び包摂と排除の文献収集を行うとともに、移民・難民やその支援者に質問票調査や面接調査を具体的に実施することを予定している。 調査対象者については、まずは移民・難民を支援する弁護士やNPO関係者、元入管職員等に面接調査・質問票調査を実施したい(「専門的知識の提供」)。他方、関係者の協力が得られれば、留学生や技能実習生に対しても面接調査を行いたい。この場合、申請者は調査前に所属大学の研究倫理委員会の審査を受ける。質問票や調査項目、同意書の内容、謝金額等はそこで逐一吟味される。また、対象者が政治的・経済的に不安定な境遇にあることを想定し、慎重に対象者の言語で事前説明を行い、調査協力が任意であることを説明し、書面で同意を取り付けられた場合に調査を実施する。必要があれば通訳を同伴する。調査結果を論文や報告で公表する場合、必要があれば当事者の氏名、国籍、年齢、性別、日本国内における居住地等をも匿名化する予定である。 ただ、本研究は、こうした調査を踏まえた上で、外国人の段階的な包摂を可能にする法制度のありかたを政策論的に検討することを企図している。ここで注目されるのは、昨年の入管法改正により、(1)在留特別許可の申請手続が創設されたこと、(2)補完的保護対象者の認定制度が創設されたことである。これらの運用の方向性を見定めてゆくことも本研究にとって重要になる。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍が完全に収束せず、また、とりわけヴェトナム語の通訳が見つからず、社会調査(面接調査や質問票調査)が困難であったからである(このため旅費、準備に要する諸費用、謝金等が不要となった)。 そこで、次年度の使用計画であるが、コロナ禍は沈静化してきたため、対面の面接調査や質問票調査も可能になりつつあると考えられる。そこで、移民、難民、避難民に対する面接調査や質問票調査、さらにもし可能であればインターネットを利用した質問票調査を実施したいと考える。 助成金は調査対象者への謝金や、調査会社に対する費用の支払い、調査票作成に必要な書籍やソフトウェアの購入費用に費消する予定である。
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