研究課題/領域番号 |
23K01080
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山田 哲史 京都大学, 法学研究科, 教授 (50634010)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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キーワード | グローバル公法 / グローバル保健法 / 医療情報法 / デジタル立憲主義 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、従来研究代表者が取り組んできた、グローバル公法(グローバルに展開される、公的権力の創設と制限を担うルール)についての一般理論の構築に関する研究を踏まえて、個別の問題領域への応用を検討し、そこでの成果を再び一般理論のブラッシュアップにフォードバックすることを目論むものである。 以上のような全体の研究構想の中で、2023年度に予定されていたのは、①一般理論に関わる従来の研究を整理し直し、これを世に問うていくことと、各論的検討の一つの柱を形成する、②グローバル保健法の具体的ありようについて解明を進めることであった。 このうち、①に関しては、全国憲法研究会の春季学術大会において、「多元化するグローバル法秩序と憲法・立憲主義」というタイトルの下、報告を行い、他の報告者や聴講者との間での討論を通じて、従来の研究を虚心坦懐に見直すとともに、深化させることができた。この他、グローバル公法と国内公法・憲法との関係を再度見直した、論文や国際判例の評釈もそれぞれ1本ずつ公表できた。 続いて、②に関しては、「グローバルな感染症対応:その意義と限界」という論考を日本公法学会の学会誌である公法研究にて公表した。これは、基本的には、研究機関開始以前の学会報告を論文化したものではあったが、学会報告の際の討論やそれを踏まえた、研究機関開始後の理解の深化を反映したものとなっている。 また、研究代表者は、研究機関開始と時を同じくして、京都大学に移籍し、医療情報法を中心的に扱う立場となったところ、情報技術の発展に伴うデジタル立憲主義などの議論は、本研究課題とも密接に関連することを改めて実感することとなり、医療分野を中心としたデジタル化に関わる公法的課題に関する研究にも着手し、その成果に関する報告も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要を説明するに当たっても言及したように、2023年度の研究内容として予定されていたのは、①一般理論に関わる従来の研究を整理し直し、これを世に問うていくことと、各論的検討の一つの柱を形成する、②グローバル保健法の具体的ありようについて解明を進めることであった。 ①については、研究実績の概要にて述べた通り、学会報告や論文公表という形で想定以上に達成することができたと自負している。ただし、これは従来の研究の振り返りに多くの研究資源が割かれたことを意味しており、本格的に、グローバル公法各論の検討に進むことができたかという観点からは、むしろ不十分性を窺わせるところでもある。 もちろん、本研究課題の「本丸」であるところのグローバル公法各論についても、これもすでに研究実績の概要において述べたわけであるが、研究成果を公表をすることができてはいる。しかし、これは研究機関前の学会報告をベースとしたものであり、当初の想定ほどに各論の研究が進められたというわけではないということは素直に認めなければならない。 この若干の遅れは、これも上述した通り、研究機関の開始と同時に所属機関が変更し、職務内容も従来のものから大きく変化したことによる。この変化によって、助成の申請時点では気づいていなかった論点にも目を向けることができるようになったのであって、デジタル立憲主義や、グローバルにも展開を見せる医療情報法という具体的課題の発見に繋がった。そして、課題の発見のみならず、まだ荒削りなものとはいえ、報告という形で成果を示すこともできている。 以上の状況を踏まえると、当初の想定よりはある面においては遅れを否定できない面があるにしても、当初想定されていなかった課題について成果を出すこともできており、総じてみたときには、概ね順調に研究が進んでいると評価する次第である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は当然ながら、本研究課題の題材であるグローバル公法各論の検討を加速、深化させる。具体的には、2024年度、2025年度には、当初の計画通り、グローバル保健法を主たる研究課題とするとともに、2023年度の研究を踏まえて新たな研究課題に加わった、デジタル立憲主義の問題にグローバルな医療情報法を具体的な題材として研究を進めることとする。 2024年度以降は、英語での研究成果の発信にも積極的に取り組んでいく予定であり、デジタル立憲主義に関して、2024年7月にスペインにて開催される国際憲法学会において、英語で報告することが決定している。また、グローバル保健法に関するこれまでの研究成果もできるだけ早く英語で公表することを目標とする。 このような研究を進めていくことで、2026年度、2027年度に中心的に取り組むことになっているグローバルスポーツ法の研究にスムースに移行できるようにする。このような研究によって、これも本研究課題の最終的目標に据えられている、グローバル公法の一般理論への還元もなんとか実現できるのではないかと思われる。 海外での調査や国際学会での積極的な報告、外国語での研究成果公表は、申請時以上に円安傾向が進んでいる中で、金銭的に困難を抱えることは否めないが、有効な取捨選択、優先順位づけを行い、また、デジタル技術の活用なども進めながら、できるだけ実現できるようにしたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度であるため、資料の購入が必要な反面、申請額からの減額もあり、円安の進展により海外での資料調査を行うには十分な額が残らなかったためである。 2024年度には、残額を従来から予定された支給額と合わせることにより、引き続いての資料充実に加え、研究成果の国際的な報告をすべく、7月開催の国際憲法学会(スペイン・マドリードで開催)への出張費用に充てる。
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