研究課題/領域番号 |
23K01085
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研究機関 | 国士舘大学 |
研究代表者 |
大澤 秀介 国士舘大学, 法学部, 特別任用教授 (40118922)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 連邦最高裁 / 帝政的最高裁 / シャドー・ドケット / アファーマティブ・アクション / 差止命令 |
研究実績の概要 |
本年度は、2つの研究論文を公表した。第1の論文は、「統合から分断へ アメリカ連邦最高裁の現在地」(『國士舘法學』第55号(2023年)81頁ー113頁)である。この論文では、アファーマティブ・アクションに関する連邦最高裁の判例が、保守的な現在の最高裁によって先例を覆されるなどしている現状を指摘した上で、トランプ大統領によって任命されたきわめて保守的な裁判官を中心に形成された現在の連邦最高裁が直面している問題を考察した。具体的には連邦最高裁の保守化状況、保守化の背景にあるアメリカ社会の分断状況、連邦最高裁への権力集中状況、そして現在鋭く問われている連邦最高裁の正当性の問題について、アメリカの学説などを参考にして分析した。 第2の論文は、「シャドー・ドケットと連邦最高裁の正当性と政治化」(『武蔵野大学政治経済研究所年報』第23号(2024年)117頁ー146頁)である。この論文では、最近の連邦最高裁の判断の政治性を端的に示す現象として、重要な連邦最高裁の判断が判決の形式ではなく、差止命令などの形式で頻繁にだされている点に関して考察を加えた。一般に判決に比べて差止命令が下される場合には、簡易な手続きで行われることが多いとされるが、最近の連邦最高裁はシャドー・ドケットとよばれる事件表に従って差止命令などによって重要な憲法判断を下す傾向がある。しかも連邦最高裁の裁判官の構成が、きわめて保守的な裁判官が中心となっているために、シャドー・ドケットによる判断は、その判断に至る過程において、本案判決に見られるような十分な議論や裁判官による明示の見解が表出されないという問題を有している。そして、この問題は連邦最高裁の判断と世論との乖離を結果的に生んでいる。そこで、本論文ではその結果生じている連邦最高裁の正当性に対する大きな揺れについて検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究が、「おおむね順調に進展している」と考える理由は以下の通りである。本研究の課題は3年計画であり、第1年度は、連邦最高裁の保守化がもたらすアメリカ連邦最高裁の正当性の揺らぎについて、論文の執筆とLineやTwitter(現X)などによる情報発信を行うことを目標として掲げた。 それらの点について見てみると、まず論文については国士舘大学と武蔵野大学の2つの大学紀要に執筆枚数30頁を超える論文2本を執筆し掲載・発表することができた。これら2つの論文は、現在の連邦最高裁が直面する正当性の危機の状況を説明し、正当性が揺れ動いている現状についてのアメリカでの認識状況を明らかにするとともに、具体的に保守化した連邦最高裁が政治的な判断を示すようになっていることを「シャドー・ドケット」をめぐる問題を通して検討した。 そして、これら2つの論文については、この問題に関心の高いと思われる研究者に郵送し、その評価を求めたが、その結果はおおむね好意的であった。またLineやXなどを通した情報発信についても、今後努力が必要であるものの、徐々に軌道に乗りつつある。また、情報発信に関して最も大きな役割を果たすと思われるホームページの作成についても、現在ホームページの作成者とその内容、公表時期等を具体的に考える段階にさしかかっている。以上の論文の執筆状況、情報発信の状況などの点から見て、本研究課題の進捗状況については、おおむね順調に推移していると評価することができる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の今後の推進方策については、以下のように考えている。 今後の研究については、基本的には当初の計画通りに行うことを考えているが、ただし論文の執筆については、当初の計画で考えていた連邦最高裁の保守化と正当性の関係をめぐる課題とアメリカの行政国家化現象と連邦最高裁の関係をめぐる課題に対して均等な形で時間、資源を配分するとしていたことについては、連邦最高裁の保守化と正当性の関係をめぐる課題に、より多くのウェイトを置く可能性が生じることがありうるように考えている。もっとも、この可能性については、2024年のアメリカ大統領選挙で共和党の候補者が勝利するのか、民主党の候補者が勝利するかによって大きく変化することが予想される。もし共和党の候補者が大統領に当選した場合には、共和党の大統領によって任命され、共和党寄りの判決を下している連邦最高裁の動向について、連邦最高裁が今後どのようにしてその正当性を保持するのかに着目して分析する必要が求められると考えている。 いずれにせよ、保守的な連邦最高裁が、それまでのリベラル色の強い先例を覆しつつある状況に関しては、今後も個別の憲法分野ごとに検討を進めていくつもりである。具体的には、2000年のBush v. Gore判決以後注目されている選挙規制の合憲性に関する保守的連邦最高裁の判決動向について、民主主義との関連で注目し分析していくつもりである。また、連邦最高裁の判断が保守化の程度をいま以上に強めていく場合には、連邦最高裁の行使する司法審査の在り方、司法審査の必要性の是非にも議論が及ぶと考えられるから、その点についても検討を加えていくつもりである。 なお、ホームページについては、現在の作業を進展させ、現在の連邦最高裁の動向、問題点について、情報発信を確実なものとするようにして進めていくつもりである。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、当初予定していたホームページ作成の事前の準備に時間がかかり、作成担当者が決定されず、事前に予定していた費用が人件費・謝金の形で支出されなかったこと、およびそれに関連してネットを利用した研究会が開催されなかったため、その他の経費が支出されなかったこと、さらに旅費が当初考えていたより学会数が少なく、支出額が少なかったことによる。 本年度については、ホームページの作成作業を本格化するため、業者との契約、ホームページ作成にあたっての研究協力者の人件費、およびホームページの維持費用が必要となると考えている。また、本年度は研究の範囲を広げるという観点から学会への参加、他の研究者特に東京在住者以外の研究者との意見交換などのために費用を支出することになると考えている。 そのほか、研究図書についてはアメリカと日本の図書を積極的に購入していく予定であり、その金額は昨年より増えるものと考えている。
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