研究課題/領域番号 |
23K01093
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
棟久 敬 秋田大学, 教育文化学部, 講師 (10783409)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 信教の自由 / 憲法内在的制約 / 実践的整合 / 三段階審査 / 政教分離 / イスラームのスカーフ事件 / 比例原則 / ドイツ憲法 |
研究実績の概要 |
2023年度は、ドイツにおける信教の自由に関する裁判実務と学説の最新の動向についての研究を行った。その成果を、論文「宗教的多様性と公教育における信教の自由の意味」に公表することができた。この論文では、裁判実務において信教の自由の制約の実質的正当化審査に現在でも変化はなく、学説もおおむね実務の動向を指示していることを明らかにすることができた。具体的には、信教の自由の制約根拠としては、憲法上の権利又は利益を挙示しなければならず、なおかつそうした権利・利益が侵害される具体的な危険がある場合でなければ、信教の自由の制約は正当化されない、というものである。また、口頭発表の機会にも多く恵まれ、特に、「信教の自由と宗教団体法制:カルト宗教規制の可能性と限界」では、ドイツの上記の動向と宗教法人法に基づく質問権の行使・解散命令請求など日本の最近の動向との比較について報告し、実務家から有益な示唆を得ることもできた。 このほか、特にコロナ禍における学校教育をめぐる問題において、連邦憲法裁判所が新たに解釈によって導き出した「学校教育への権利」の保障内容とその制約及び正当化審査に関する研究も遂行し、論考を公刊することができた。従来、信教の自由に対抗する憲法上の利益のひとつである「学校の平和」は、客観的法益と理解されてきた。しかし、連邦憲法裁判所は、「学校教育への権利」には、「生徒は、・・・・・例えば学校の平和の妨害を理由とした負担となるような秩序措置や学校の閉鎖の場合などの措置」に対抗しうる防御権的側面があると述べ、学校の平和が基本法7条1項及び2条1項に基づく主観的権利であると理解している。これにより、今後は、学校における信教の自由の行使が、学校教育への権利の防御権的な次元と対立する可能性もあることを、研究の遂行及び論考の刊行によって明らかにすることもできた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は、ドイツ憲法における信教の自由の解釈論に関する業績を多数公刊することができた。これにより、次年度以降の研究の準備はほぼ完成した状態となっている。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、信教の自由と学校の平和との衝突及びその調整という、各論的な考察が中心であった。今後は、この研究成果をもとに、連邦憲法裁判所の判例実務において確立されている、実践的整合や憲法内在的制約とはいかなるものであり、どのような機能を果たしているのか、その限界や学説における議論の現状について検討した論考の公刊を目指していきたい。そのうえで、ドイツ憲法における信教の自由に関してこれまで公表してきた論文を単著の論文集として公刊することが必要だと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初購入を予定していたドイツ憲法の刊行時期が大幅に遅れているため、当初の想定よりも予算の執行ができなかったため、次年度使用額が生じた。
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