研究課題/領域番号 |
23K01095
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
吉村 政穂 一橋大学, 大学院法学研究科, 教授 (70313054)
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研究分担者 |
藤間 大順 神奈川大学, 法学部, 准教授 (30882774)
堀 治彦 東北学院大学, 経営学部, 准教授 (80911388)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 租税法 / 法人税 / デジタル課税 / 税務行政DX |
研究実績の概要 |
デジタル化の進展は、国際課税ルールや法人税制に大きな影響を与える。本研究では、デジタル化によって生じる具体的論点を分析し、法人税制の変質・解体を検討し、整合的な解決策の提示を目的としている。2023年度は、メンバーがそれぞれ既存の研究を発展させる形で、デジタル化の進展が税制に与える影響を多角的に分析している。 第1には、デジタル化時代における税制のあり方を検討する上で重要なインフラに関する研究を深めている。デジタル化の進展に伴う経済活動の変化を的確に捉え、税制の適応性を高めることは、税制の公平性と安定性を確保する上で不可欠である。また、税理士制度や税務行政のデジタル化は、納税者の利便性の向上と税務執行の効率化に資するものであり、税制の運営において重要な役割を果たすことが期待される。法人税制を含めた税務行政を支えるインフラとして、その将来像について検証した。 第2には、デジタル化をはじめとする国際的な金融市場の変化が、税制にどのような影響を与えるのかを検討してきた。国際的な金融・投資税制の動向と、デジタル経済における新たな資産である暗号資産の税制について、近年の動向を整理している。国境を越えた投資活動の拡大や、暗号資産の普及など、金融・経済のグローバル化とデジタル化が急速に進展する中で、これらの分野における課税のあり方をアップデートすることが必要だと指摘している。例えば、暗号資産は、その匿名性や国境を越えた取引の容易さから、税務当局による把握が困難であり、適切な課税の実現が課題とされる。暗号資産取引所に対する情報提供義務の強化や、各国税務当局間の情報交換ネットワークの拡充などの方策が、OECD等の国際協調の下でどのように進んでいるかを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの研究の進捗状況は、おおむね順調に推移していると考える。デジタル化の進展が税制に与える影響について、法人税制や所得税制に与える影響を多面的に分析した。例えば、ICOや分散型自律組織などの新たな資金調達方法や、国境を越えた資金移動の影響といったテーマで研究を進め、その成果(の一部)を明らかにしている。また、税理士制度や税務行政のデジタル化が税制に与える影響や、適切な対応のあり方についても考察を深めた。また、国際的な金融・投資税制の動向について、投資信託税制や暗号資産税制において、国際的な税制協調の重要性を明らかにし、デジタル経済における新たな資産の課税のあり方について重要な示唆を得ている。 これらの研究成果は、学術論文や研究会報告等の形で発信し、税制のあり方に関する議論に一定の貢献を果たしていると考えている。また、メンバー相互の意見交換も進めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これらの論文で得られた知見を基礎に、さらに法人税制を中心とした税制の方向性を探究していく必要がある。その際には、デジタル化がもたらす新たな経済活動や資金移動の実態を踏まえた、適切な課税のあり方を検討するとともに、税理士制度や税務行政のデジタル化を推進し、税制の運営基盤を強化していくことも求められる。これらの取り組みを通じて、デジタル化時代における公平かつ効率的な税制の方向性を示していく。具体的には次のようなテーマに取り組んでいく。 第1に、暗号資産やNFTなど、デジタル経済における新たな資産や取引の出現に伴い、これらに対する適切な課税のあり方を検討する。各国の税制改正動向を踏まえつつ、課税の公平性と効率性を確保するための方策を探究していく。 第2に、デジタル経済のグローバル化に伴い、国際的な税制協調の重要性が高まっている。OECDにおけるデジタル課税の議論など、国際的な税制協調の現状と課題を分析し、望ましい協調のあり方を模索していく。 第3に、金融・投資税制については、各国の制度設計や改正動向を比較分析し、税制の国際的な調和や競争力の観点から、日本の税制に与える影響を検討する。特に、投資信託や年金制度など、長期的な資産形成に関わる税制について重点的に取り組むことを予定している。 最後に、税務行政のデジタル化と納税環境の整備について、日本の税務行政デジタル化の取り組みを分析し、納税環境の整備に向けた示唆を得る。特に執行面の変革は、国際的な税制協調や、デジタル経済における税制のあり方を考える上で重要な示唆を与えるものである。金融・投資税制やデジタル資産税制の分野において、より公平かつ効率的な税制の構築に寄与するインフラとして捉える必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
メンバーが議論するための研究会開催に伴う旅費・会場費等を見込んでいたが、メンバー勤務校の学内助成等により支出が不要となるなどしたため。2024年度においては、円安の影響による海外出張に係る旅費や洋書価格の高騰が見込まれるため、その超過分に充当することを予定している。
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