本研究の目的は、国際機構内部に生起する規範構造の全容を明らかにすることにある。 具体的には、国際機構内部における法規範は、規律対象を基準として、大きく以下の2つに区分される。第1は、内部組織・行政事項を規律する組織法である。これは、内部機関により決議の形で制定・決定された成文法規範と、諸機関や加盟国、事務局の長や事務職員らの実行に基づく不文法規範に分類される。第2は、加盟国を直接の名宛人として作用を及ぼす作用法である。国連憲章7章の集団安全保障の枠内で採択される憲章25条に基づく安保理の決定は、個別の加盟国に対して法的義務を課す。また、EUにおける諸規則や、国際民間航空機関(ICAO)理事会による民間航空の安全等に関する「国際標準」、世界保健機関(WHO)総会が採択する「国際保健規則」のようなものもここでは作用法として分類される。 これら組織法と作用法から成る内部法規範は、もとをたどれば、機構の設立文書に基づくものである。従って、本研究では、種々の規則を誰がどのように解釈し、適用・実施してきたのかを分析し、また、それにより生み出されてきた規範の生成メカニズムを探ることを目的とする。その結果、これまで十分に解明されてこなかった、設立文書を頂点とした国際機構に共通する緻密な法秩序とその生成メカニズムを浮かび上がらせることができると考えた。 2023年度の研究としては、まず、前提的考察として、先行研究を網羅的に分析検討し基礎研究を行うことに努めた。そのため、内外の主な学者の理論を整理した。具体的には、D.W.Bowett、H. G. Schermers & Niels M. Blokker、C.F. Amerasinghe、N.D. White、J. Klabbers、横田洋三、植木俊哉らの学説を中心に検討した。
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