研究課題/領域番号 |
23K01145
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松田 岳士 大阪大学, 大学院法学研究科, 教授 (70324738)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 強制処分 / 法定主義 / 捜査法 / 比例原則 |
研究実績の概要 |
研究1年目である令和5年度は、捜査法解釈論の主要なテーマである刑訴法197条1項但書が定める強制処分法定主義の適用方法に焦点を当て、その適用対象となる「強制の処分」の定義について、従来の議論の問題点を洗い出し、視点を転換することによって新たな解釈を導き出すための検討を行ってきた。 具体的には、従来の通説とされてきた重要権利利益侵害説においては、強制処分とは、「相手方の明示または黙示の意思に反して、その重要な権利・利益の制約・侵害を伴う処分」として定義され、このうち、とくに「重要な権利・利益の制約・侵害を伴う」か否かの判断は、捜査行為を、たとえば、写真撮影、通信・会話の録音それ自体といったその「本体」の内容に着目して類型化し、その行為類型毎にいかなる権利・利益が制約・侵害されるかを綿密に分析することによって行われるものと解されてきた。 しかしながら、その語義に即して理解するならば、「強制の処分」とは、「強制的に行われる処分」、すなわち、特定の個人の意思に頓着せずに行われる処分を意味し、そうであるとすれば、強制処分性は、その本体よりも手段に着目し、行為の内容如何にかかわらず、一つの共通の基準によって判断されるはずのものであろう。このような問題関心から、本研究においては、強制処分性の一要素としての「権利・利益」とは、いかなる内容の権利・利益でもよいものではなく、個人の固有領域および私的領域の不可侵に限定され、これらの領域に踏み込んで行われる捜査行為は、その内容の如何にかかわらず、強制処分に該当するとの結論が導かれた。また、このように、強制処分性の本質が、個人の支配領域に、その意思を尊重せずに踏み込むことに求められるとすると、同規範の適用の際に着目すべき事情は、従来の通説の下におけるのとは異なるものとなってくることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究1~2年目の令和5~6年度においては、「捜査法の適用方法」という観点から、捜査法上の主要論点に関する従来の議論のあり方を根本的に検討し直し、各論点についての議論枠組の再構築を試みることが予定されていた。 そして、令和5年度においては、刑訴法197条1項但書の「強制の処分」の解釈(あるいは、強制処分該当性の判断基準)について、判例のいう「強制手段」や捜索差押状等の執行に「必要な処分」等の一定の捜査目的達成の「手段」となる行為に、強制処分性判断においていかなる意義が認められるかを検討しつつ、それが(誰に)何を「強制」する処分を意味するのかという観点から再構成することが目標であったが、その解明の前提となる主要課題である、強制処分性において問題とされる権利・利益の内容および位置づけについての理論的解明は達成されつつある。また、その成果は、既に2本の論文にまとめており、令和6年度中に公表の予定である。 できれば、強制処分性を根拠づける「(特定の)個人の意思の不尊重」の要素について、それが、具体的にいかなる内容の「意思」なのかについての検討も済ませておきたかったが、この点についての検討は、令和6年度に持ち越すこととする。
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今後の研究の推進方策 |
本研究2年目である令和6年度においては、まずは、強制処分性の主要な要素である「個人の意思を尊重せずに行われる」ことの意義について、とりわけ、ここで問題とされるべき「意思」とは、いかなることがらについての「意思」なのかという観点から検討し直し、強制処分該当性の判断方法についての研究を完成させる予定である。次いで、再構成された強制処分概念の下での強制処分法定主義と捜査比例の原則との関係性について、とくに、これら各規範において問題とされる権利・利益の内容の差異に着目しつつ、また、両規範の趣旨説明を再構成しつつ、解明することにしたい。その際、可能な範囲で、外国法を適宜参照することとする。さらに、これらの理論的検討の結果をもとに、関連する主要な判例を改めて解釈し直し、判例においては、いかなる捜査法の解釈方法が想定されてきたのかについて検討する予定である。 研究3年目である令和7年度においては、それまでの研究において解明された捜査法の適用方法を応用する形で、おとり捜査、コントロールド・デリバリー等の複数行為から成り立つ捜査手法の捜査法に照らしての適法性について、それを構成する諸要素のどの部分・側面に着目して、いかなる規範に照らして判断すべきかという問題に取り組むことにする。
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