研究課題/領域番号 |
23K01181
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研究機関 | 小樽商科大学 |
研究代表者 |
岩本 尚禧 小樽商科大学, 商学部, 教授 (80613182)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 遺言 / 遺言能力 / 遺言の撤回 / 認知症 / 記憶 / 私的自治 / 法律行為 / 高齢者 |
研究実績の概要 |
本研究のテーマ「遺言の撤回」として、特に「抵触遺言による撤回」(民法1023条1項)を取り上げ、その際に必要な遺言者の能力の在り様を分析した。その結果、以下の点が明らかとなった。 第一に、「抵触遺言による撤回」の際には「新しい遺言」の要件として遺言能力が必要である。この点は必ずしも明示されることがないものの、本来的に当然の帰結である。第二に、「抵触遺言による撤回」は「(撤回対象たる)過去の遺言」を前提として、これを否定する制度であり、これは私的自治の自己否定であるから、この点を踏まえた能力要件が設定されるべきである。第三に、上記「第二」の帰結として「抵触遺言による撤回」の際に遺言者は「過去の遺言」について理解および記憶を有していなければならない。第四に、過去の事象に関する理解と記憶が必要であることは、いわば「私的自治の自己否定」による正当化という観点からも重要であり、この点は例えば解約手付の制度においても同様であって、ひいては民法の要請である。第五に、上記「第四」の帰結に反して通説は同条の「みなす」効果に基づいて遺言者の真意および忘却を問わないが、しかし同条の「みなす」効果は1025条が真意の確保を求めている反射的作用として既に無意味であり、その結果として通説の見解も不当である。第六に、上記「第五」の通説と軌を同じくする裁判例が存在するものの、これは通説に対する批判と同様の理由により不当である。 以上を要するに、遺言者は「抵触遺言による撤回」の際の遺言能力として、撤回対象たる「過去の遺言」に関する理解および記憶を有していなければならない。とりわけ遺言者が認知症患者である場合には、その「理解および記憶」を疑う契機が明確に存在するのであるから、この点に関する慎重な判断を裁判所は民法の要請として果たすべきである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前記「研究実績の概要」において示した通り、初年度の研究成果を論文として公表できる準備が既に進められており、本研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
3カ年計画のうち初年度は日本法の状況について分析した。これに基づいて、次年度においては比較法としてドイツ法およびイギリス法を分析する予定である。その際には、まず本テーマに関連するドイツ法およびイギリス法の裁判例を取り上げ、その傾向把握に注力する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度研究計画における日本法研究の比重が当初計画よりも大きくなり、既に所有していた研究資料を活用できる余地が大きかったため。この「差額分」は、次年度において不可欠な外国法研究資料費として活用されることで解消されるものと思われる。
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