研究課題/領域番号 |
23K01210
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
西井 志織 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (80637520)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 特許権 / 知的財産 |
研究実績の概要 |
2023年度は、特許法における技術者の「協働」の一場面として、英国特許法における「当業者」とその技能・知識についての分析の成果をまとめた論文を公表した(清水節先生古稀記念論文集『多様化する知的財産権訴訟の未来へ』(2023年10月刊行)所収)のに加え、これにドイツ法における当業者を巡る議論も追加する形で、2024年2月、日本弁理士会東海会研修会で報告を行った。日本ではこれまで当業者の「チーム」性はあまり意識されてこなかったが、社会状況として、技術融合(AIを利活用した発明を含む)が一層進展し、また特許庁の審査(体制や運用)もそれをにらんで改良を重ねられつつある現在、技術者の協働を想定する当業者の「チーム」性や、その教育・専門技能レベル、技術常識等をいかに把握するかは、特許の成立性・有効性や侵害成否を判断するうえで重要な問題となり得る。 さらに、特許法以外の知的財産保護法制における主体の「協働」を巡る問題へと関心を広げた。我が国で地理的表示法について訴訟で争われた初めてのケースを取り上げ、複数の生産者団体が同一の地理的表示の登録を申請した事案で顕在化した諸問題(産品の「特性」と「生産地」の認定、生産者団体間の合意形成等)につき検討し、研究会で報告した(2023年12月)。技術を持つ複数団体が当該産品の社会的評価に寄与・貢献したという意味で、客観的に見て「協働」があると評され得る状況における地理的表示法上の課題について、論文の形での公表を予定している(2024年6月刊行の雑誌に掲載予定)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は、特許法における当業者についての研究成果を論文として公表し、報告を行うことができた。また、もともと2023年度に具体的に計画していたことではないが、他の知的財産保護法制における主体の協働にも視野を広げて報告を行い、論文の形での公表へと進展することができたため、上記のように評価した。
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今後の研究の推進方策 |
技術者の協働を巡る日本法の課題を見据えながら、外国法の現状分析のための基礎的な研究を行う。2023年度は当初具体的に予定していたわけではなかった研究も行ったため、計画に多少の修正は必要であるが、引き続き関連論点にも目を配り、問題意識の深まりに応じて柔軟に対応する。授業期間中には移動の制約もあるが、対面の研究会では可能な限り現地に赴き、実務家や研究者と意見交換を行うことを、研究推進の方策とする。長期休暇を利用して成果をまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
【理由】出席を予定していた研究会がオンライン開催のままであること(またはオンラインも併用であること)が多く、また対面開催であっても授業の関係で現地に赴けない場合もあったため、関東・関西での研究会に出席すべく計上していた旅費を、予定ほど使用しなかった。図書については、他経費で購入できたり有難くもご恵贈いただいたこと、また一部を所属機関のデータベース上で閲覧・入手できたこと等から、次年度使用額が生じた。物品にも、検討の結果、購入を次年度に回したものがあった。 【研究計画】2024年度の研究に必要な図書に加え、引き続き、調査分析に必要な物品の購入をさせていただくほか、対面参加が可能となった研究会への出席のために旅費を支出する。
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