研究課題/領域番号 |
23K01220
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
渡邉 泰彦 京都産業大学, 法学部, 教授 (80330752)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | LGBT / SOGI / 親子関係 / 同性カップル / 同性婚 / 家族法 |
研究実績の概要 |
比較法の観点、日本法の判例分析をとおして、同性カップルにおける同性の両親、父母の一方の性別変更による同性の両親を検討した。 「同性の両親と子-ドイツ、オーストリア、スイスの状況 - (その8)」産大法学57巻3・4号317頁において、スイスにおける同性カップルと親子関係について縁組の規定の改正から検討した。同性婚の導入の前後で同性カップルが未成年の子と共同縁組することへの評価が変化したことが明らかになった。日本について、東京地判令和4年11月30日(判時2547号45頁)に対する評釈である「同性カップルと「パートナーと家族になるための法制度」(結婚の自由をすべての人に)東京第一次訴訟」新・判例解説Watch vol. 33, pp.105では、同判決が同性カップルが子を育てる家族が存在し、女性カップルが精子提供により子をもうける可能性を指摘したことの意味を考察した。「ドイツでの同性婚まで25年?16年?4日?」ジェンダー法政策研究所編『同性婚のこれから』花伝社122-146頁では、自然生殖により子をもうけることが想定されていない同性カップルに、異性カップルと同様の婚姻を認めることの意義、同性婚を認める理論的背景をドイツ法との比較から検討した。婚姻と異なる制度を同性カップルのために設ける意義がないことを比較法の観点から示した。 父母の一方がその性別を変更することにより同性の両親が生じうることについて、「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項3号「現に未成年の子がないこと」の要件が憲法13条、14条1項に違反しないとされた事例」(判例評論770号118頁)では最決令和3年11月30日(判時2523号5頁)について同規定を合憲と判断した法廷意見を批判的に検討するとともに、違憲とする反対意見を支持する理由を述べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年度は、日本での判例の動向に研究の進展に対応して、研究内容を整理し、今後の研究の推進に繋げていく段階となっている。当初の研究計画においては、日本法での進展が見込めないという前提でドイツ法との比較を念頭においていた。 しかし、2023年6月にはLGBT理解増進法が施行され、最大決令和5年10月25日は性同一性障害特例法3条1項4号の「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」という要件が違憲であると判断した。とりわけ、最大決令和6年により、父母の一方が性別を変更した場合に自然生殖によって法的に同性の両親が生じうる可能性がある。最大決令和6年の検討は比較法的検討において欠かせないものである。 また、計画書において初年度の研究の中心としていたドイツ性別に関する自己決定に関する法律が2024年上半期に国会で審議、連邦議会で可決し、急進展をみせた。そのため、草案に変更が加えられたのか、国会でどのような審議がなされたのかを立法資料から調査する必要が生じている。 以上の、日本とドイツにおける状況の変化に対応することが2023年度には求められ、その点から当初の計画とは異なる研究が必要とされたことから、計画に比べて表面上は遅れを生じている。しかし、この遅れは次年度からの研究を円滑に進めるために必要な準備であったと位置づけられる。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、初年度の計画にあるドイツ性別に関する自己決定に関する法律の内容、立法過程における議論を立法資料から明らかにしていく。比較法的研究から、自己決定による法的性別を認める制度の構築、その前提、問題点を明らかにしていきたい。これらをとおして、日本のLGBT理解増進法の立法過程で明らかになった性的マイノリティーへの偏見にどのように対処し、同性の両親を客観的に考察し、議論するための基礎を考察する。 第3の性別については、2024年度の研究計画の中心となっており、この点も並行して研究を進めていく。この論点については、ドイツにおいて性別に関する自己決定に関する法律の一部としても位置づけられることから、同法の立法過程の研究とともに進めていくことになる。 子の出生前に親の一方が性別変更していた場合の法的親子関係、とりわけ精子を凍結保存した後に男性から女性に性別を変更し、その凍結精子を用いて他の女性が子を出産した場合の親子関係について、2024年に最高裁が判断を示すことが予測される。この点は本研究の中核部分に関わるものであるから、その検討を行う。この点から研究計画の推進方策に一部の変更が生じうることが想定される。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度の夏季には家族の、冬期には本人の体調不良があり、遠距離の出張を実施できない状況であった。そのため、旅費を利用することができなかった。機材については、初年度の導入を計画していたが、以前の機器を引き続き使用することが現時点では可能であり、むしろ2年目、3年目に機器更新を行う必要が生じ、研究費をより有効に利用する方策であることが明らかになった。また、円高の進行により機器などの価格が上昇していることから、研究費の範囲内で使用する機材の選択と集中を行い、研究がより進展する2年目、3年目に使用できる額を増やすことが必要であると考え、初年度はスタートアップに必要な限度での使用とした。2024年度、とりわけ2025年度には、必要機器の更新による物品費の使用のほか、海外での調査研究を計画して旅費の多くを必要とすることが見込まれる、
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