研究課題/領域番号 |
23K01265
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
久保 浩樹 明治学院大学, 法学部, 准教授 (40789559)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 分極化 / イデオロギー / 政党 / 比較政治 / アメリカ政治 / 計量分析 / 議会研究 / 選挙研究 |
研究実績の概要 |
政党システムのイデオロギー的分極化は、世界でどのように、なぜ異なっているのだろうか?アメリカの民主・共和の二大政党間のイデオロギー的分極化が深刻化し、政治に停滞をもたらしていることは広く知られている。しかし、既存の膨大なアメリカの分極化研究は、分析対象をアメリカ一国に集中して、理論的・歴史的に分析する一方で、比較の視野からアメリカの分極化を他国の分極化と国際比較する研究は皆無に等しかった。応募者はサーベイデータの計量分析の方法論的研究から左右のイデオロギー対立を国際比較可能な尺度で測定し、政策争点の複雑性の程度を数量化することにすでに成功した。この方法とデータを用いて、世界各国の分極化がどの程度異なり、アメリカの政党の分極化を世界の比較の中に位置付け、さらに分極化の程度と質的な違いをもたらす要因も比較論的に明らかにする。 政党システムの分極化とは、主として現代アメリカ政治において、民主党がリベラル化し、共和党が保守化することで、二大政党の対立が拡大していく現象を表す言葉として用いられる。民主党と共和党のイデオロギー的対立の激化は、政治的妥協を困難にさせ、政策過程の停滞や政治不信の増大にもつながるとされている。これらは、日本を含む世界全体の国際政治に大きな影響を与える。それゆえに、アメリカの分極化の原因を解明することはアメリカの理解にも世界政治や日米関係の理解にも必要不可欠であると考えられる。 1)アメリカの分極化がどのように他国と異なっていて、どの程度国際比較の観点から深刻なのか?2)分極化は世界各国でどのように異なっていて、その分極化の程度の違いは何によって生じるのか?3)分極化をめぐる争点は、単一なのか複数なのかという分極化をめぐる多次元性はどの程度各国で異なっているのか?という以上の三つの問いを比較の視座から明らかにしたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
政党政治のイデオロギー的分極化という現象をアメリカも含めて国際比較をするのが本研究の最大の目標である。この課題の最大の難点は、左右のイデオロギー対立軸の意味付けや解釈が人により異なっている中で、どのようにして国際比較可能なイデオロギー的尺度を作り出して比較するのか?という点である。筆者はすでに海外の共同研究者と共に、有権者サーベイを用いて国際比較可能な、有権者のイデオロギー的位置の推定に成功した。また、政党間競争の政策争点の一次元性―多次元性の程度も数量化することに成功した。 国際的な有権者サーベイであるCSESを用いて、先進国、発展途上国双方を含めた40カ国以上の政党と有権者のイデオロギーを国際比較可能なかたちで数量化し、さらに同様に40カ国以上の国の政策空間の一次元性―多次元性の程度を国際比較可能なかたちで数量化した。政策争点の一次元性―多次元性の数量化を国際比較可能な形した。 アメリカ政治が分極化していることは広く知られている。またその分析も日米の研究者が数多く行っている。しかしながら、アメリカの分極化が他国とどのように違っているのか?何が各国ごとの分極化の程度の違いをもたらすのか?という研究はほとんどない。その点で独創的である。本研究の最大の特徴は、比較政治とアメリカ政治の融合的研究であるという点である。アメリカ政治はアメリカ自体が巨大な国家であり、アメリカ政治分析自体が大きなディシプリンであったために、アメリカ政治分析と、多国間比較政治分析との交流が薄かったと思われる。本研究では、アメリカ政治を比較政治の一部として位置付け、アメリカ政治の知見を比較政治に拡張し、さらにアメリカ政治の理解にも役立てるように、アメリカ政治と比較政治双方を分極化という共通の視点で分析した。このようなアプローチは未だに少なく、幅広い分野に貢献できる。
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今後の研究の推進方策 |
政党システムのイデオロギー的分極化が、本研究の課題であるが、より具体的には1)有権者のイデオロギー的分極化の国際比較、2)政党のイデオロギー的立場の分極化の国際比較、3)アメリカの50の州レベルの分極化の地方政治比較、という三つの観点から、アメリカの分極化を「外」と「内」から分析する。前二者は、アメリカとアメリカ以外の国家との国際比較による分極化の分析である。具体的には、先述した多国間の有権者サーベイを用いた政党の分極化と有権者の分極化を従属変数とし、国家レベル、政党レベル、個人レベルという三つのレベルの要因という独立変数からエリートと有権者双方の分極化を分析し、アメリカをその中に位置付ける。このことにより、分極化が特定の国家や社会構造から生ずるのか、それともエリートや政党の行動、ないしは有権者や大衆レベルから生じる現象なのか、データから明らかにすることができる。 三つ目として、アメリカ内部の州という地方政治の単位を比較する観点から分極化 を明らかにする。上記の多国間比較の結果をもとに、アメリカの州・地方政治レベルの分極 化も同様に分析し、アメリカ内部の分極化にも、比較政治の知見を応用して分析を深めた い。すでに、下院議員のイデオロギー的分極化を分析したが、同様に上院、州知事、州議会議員など連邦と州の相互作用も含めてアメリカの地方政治の分極化を比較論的に考察しつつ、アメリカの「内部」の分極化の多様性も明らかにしたい。 最後に政党サイドの選挙戦略や政治エリートの行動に関するデータを収集する。近年大量に蓄積 されている政党の行動や戦略に関する専門家サーベイなどを用いて、政党や政治エリートの戦略 的行動や有権者への支持獲得戦略などを指標化し、データセットの一部として組み込みた い。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度においては、研究の大幅な道筋をつけ、先行研究を本や論文で把握し、研究上何が必要なのかをより明確にするとともに、データセットの構築を目指すという道筋であった。そtのために、大量の文献を収集し、政党政治や選挙研究、議会研究や政治学方法論の分野における現状を学ぶことができた。しかしながら、データセットの構築には時間がかかり、そのために使う費用を失効するまでに至らなかったために、次年度使用額が生じた。今後は、データセットの構築や、パソコン用の統計的ソフトウェアのライセンスの購入の費用などに当て、データセットの構築とその分析に費用を大きく注ぎたい。
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