研究課題/領域番号 |
23K01431
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研究機関 | 摂南大学 |
研究代表者 |
名方 佳寿子 摂南大学, 経済学部, 准教授 (70611044)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 子どもの学力 / 子どもの非認知能力 / 親と子どもの時間 |
研究実績の概要 |
子ども時代の学力は将来の学歴・就職・所得の大きな目安となり、貧困家庭で育った子どもの学力は低い傾向にあることがこれまでの研究で分かっている。現在日本では子供の貧困率が上昇し、子どもの学力の低下や教育格差が深刻化し対策が求められている。しかし、日本には全国レベルの子どもの学力や家庭環境に関する詳しい統計データがない為、(1)家庭環境の影響が正確に推計できない(2)家庭環境の重要な変数が十分考慮されていないという問題があり、その結果「家庭環境が子どもの学力にどのような影響を及ぼし、子どもの学力向上のためにどのような対策が必要か?」という学術的な問いに関する研究が進んでいない。 そこで本研究では独自のアンケート調査を行い、親が子どもと接する時間、親と子どもとのかかわり方、会話内容などこれまで考慮されなかった家庭環境が、子どもの学力に及ぼす影響を計量経済学的手法を用いて正確に推計し、子どもの学力を向上させる対策を考案することを目的とする。 Nakata(2022)では独自に小学6年生の子どもを持つ親を対象にアンケート調査を行い、日本で初めて複数年にわたる子どもの成績、親が子どもと接する時間や会話内容等の詳しい家庭環境のデータを集め、家庭環境が小学6年生の全国学力テストの結果に及ぼす影響を分析した。分析の結果、母親・父親両方の子どもの勉強を見る時間、両親との会話、子どもへの期待、そして所得が子どもの学力に大いに影響を及ぼしていることが分かった。本研究は子供を小学6年生よりさらに上の中学3年生を対象としたときの家庭環境の影響を分析することを目的とする。R5年度の研究では先行研究に基づき、モデルの構築とR6年に予定しているアンケート調査の調査票を作成する予定であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この研究は研究課題名『労働市場、家族の変容と多様な貧困:その要因、帰結と貧困対策』の科研費C(研究代表者は上田 貴子氏、申請者は研究分担者)で行った研究の拡張版である。具体的には、前回は小学校6年生の両親を対象に子どもの学力・非認知能力の評価だけでなく、家族構成、所得、子どもの人数、親の年齢、学歴、就業状況、幼少期の育て方、親の子どもとの時間などの詳しい家庭環境についてアンケート調査し、それに基づいて家庭環境が子どもの学力・非認知能力に及ぼす影響を分析したが、今回は中学校3年生になった時の家庭環境の子どもの学力・非認知能力に及ぼす影響を分析する。R5年度では前回の研究成果を国際学会・国内学会など含めて5回発表し、その結果、(1)親の子どもとの時間は親の所得や学歴を大きく反映しており、子どもの学力・非認知能力に重要であること、(2)しかしながら、Pilot調査の結果、親が子どもの勉強を見る割合は小学6年生では母親7割、父親5割だったのが、中学3年生になると2~3割に減少するため、中学3年生の親を対象としたアンケート調査では親と子供のかかわり方について質問数を増やしたり、勉強を見なくなった理由を聞く必要があると考えたこと、(3)親の勉強を見る時間の子どもの学力に及ぼす影響には子どもの性格と夫婦の関係も影響してくることがわかり、夫婦間の関係性や親と子供の信頼関係についての質問も改めて設ける必要があることが分かった。さらに、推計方法を線形関数にしても対数関数にしても結果はRobustであり、学力・非認知能力をNormalizeした方がいいことがわかった。これらの結果をもとにR6年はアンケート調査票を作成し、データ収集後分析を始める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
R6年度の研究では、前回小学6年生の両親を対象としたアンケート調査票をベースに、国内・国外における子どもの学力に関する統計データの調査票(全国学力・学習状況調査(文部科学省)、21世紀出生児縦断調査(厚生労働省)、慶應パネルデータ、TIMSS、PISA)を参考にアンケート調査票を作成する。その後、大学における人を対象とする研究倫理審査を受け、アンケート調査を行う会社の選定・見積もりを行う。アンケート調査で必要な中学3年生の学力の指標となる全国学力テストの結果は9月に各家庭に返却される予定なので、9月下旬から10月上旬にかけてアンケート調査を行う予定である。データ収集後はデータクリーニングを行い、データの分布を確認した上で、家庭環境が中学3年生の学力や非認知能力に及ぼす影響について計量経済学的手法を用いて分析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
R6年度は研究に関する図書を購入しただけである。これは今年アンケート調査を行う予定であるが、当初予定していた予算200万円では賄うことが難しいことがわかっていたからであり、できるだけ本年度にお金を残したかったからである。具体的には、前回の小学6年生の子どもをもつ両親へのアンケート調査では4600サンプルで40問の質問数でアンケート調査を依頼したが、全部で240万円ほどかかった。コロナ以降、アンケート調査に対する需要が増えたうえに、学術研究者への割引がなくなったり価格が高騰した結果、2年前に同じレベルの調査をしたい場合には300万円ほど必要と伺った。OECDが実施する国際的な学力調査PISA(Program for International Student Assessment)では4500人以上、150校以上を対象として調査している。つまりこれだけの人数がないと、国の特定の学年の子供たちの学力の分布がわからないということであり、モニター数を減らすことはできない。5月にアンケート調査会社に見積もりを依頼する予定であるが、もし全く足りない状況であれば7月に科研費の繰り上げ申請を行う予定である。
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