研究課題/領域番号 |
23K01445
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
岸 智子 南山大学, 経済学部, 教授 (30234206)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | デジタルスキル / 高齢者 / 就業 / 固定効果モデル |
研究実績の概要 |
1)日本の高齢者のデジタルスキルと就業については、慶應義塾大学の「日本家計パネル調査」の2019-2021年のデータを用いて分析を行った。この調査は、表計算ソフトや統計解析プログラムを使いこなす能力を尋ねている。第(t-1)年に表計算ソフトや統計解析プログラムを利用できたことが第t年の就業状況に及ぼす効果にについて、固定効果モデルで分析した。分析対象は60-75歳の回答者である。年齢や健康状態などをコントロールし、男女別に分析した結果、第(t-1)年に表計算ソフトや統計解析プログラムを使いこなせた人の第t年における就業率は、そうでない人と同じかまたは有意に低いことがわかった。 2)外国の高齢者については、SHARE-ERICが収集するパネルデータThe Survey of Health, Ageing and Retirement in Europe の2015-2019年のデータを用いて分析を行った。この調査には、表計算ソフトや統計解析プログラム等に関する設問はなく、デジタルスキルに関する5段階の自己評価に関する設問がある。第(t-1)期に自分のデジタルスキルを高く評価していたことが、第t期の就業状況に及ぼす効果を、固定効果モデルで分析した。分析対象は60-75歳の回答者である。年齢や健康状態などをコントロールし、男女別に分析した結果、第(t-1)期に自分のデジタルスキルが高いと答えた人は、そうでない人と比べ、第t年の就業確率が有意に高いことがわかった。 3)分析の結果は2024年3月に九州大学で開催された「実証的なモラル・サイエンス研究集会」で報告した。また、2024年6月にアメリカのシアトルで開催されるWestern Economic Association International 99th Annual Conference でも報告の予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に日本およびEUのパネルデータを用いてある程度、比較可能な分析を行うことができた。分析結果はリサーチ・ペーパーにまとめたが、国内の学会で報告を行い、そこで受けたコメントをもとに修正しているところである。また2年次には国際学会での報告を予定している。計量分析では、日本のデータの分析結果とEUのそれとは全く異なることが明らかになり、現在はこの結果の頑健性、すなわち少し変数を変えても結果が変わらないかどうかをチェックしている段階である。このような進捗状況は、課題申請時の計画書に記載した1年次の計画とおおむね一致している。
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今後の研究の推進方策 |
1)日本のデータを用いた分析:「日本家計調査パネル」の2022年度版が利用可能になったので、これまで利用していたパネルデータに連結し、分析をやり直す予定である。2023年の分析では、第(t-1)年に表計算ソフトや統計解析プログラムを使いこなせた人の就業率は、そうでない人と同じかまたは有意に低いという結果が出ている。それはなぜなのか。今後はデジタルスキルを持ちながら就業していない人、デジタルスキルを持っていないが就業している人が、それぞれどのような人たちなのかを明らかにする予定である。 2)EUのデータを用いた分析:The Survey of Health, Ageing and Retirement in Europeに関しても、2022年版のデータが利用可能になったので、今まで利用していたパネルデータに連結し、分析をやりなおす。2023年の分析では、第(t-1)期に自分のデジタルスキルが高いと答えた人は、そうでない人と比べ、第t年の就業率が有意に高いという結果が出た。しかし、この結果の頑健性はまだ確かめられていない。今後は操作変数法を用いた分析などによって、結果の頑健性を確認したいと考えている。 3)The Survey of Health, Ageing and Retirement in Europe以外にも、デジタルスキルに関する設問項目のあるパネルデータがあったら、それを利用し同様の分析を行う予定である。 4)できたら2024年度中に論文を完成させ、投稿したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
計量分析の最新の理論および手法に関する書籍2冊(出版社はアメリカ)を購入予定だったが、当初の予定よりも価格が高騰していたため、書籍購入分を次年度に繰り越した。
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