研究課題/領域番号 |
23K01460
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
久納 誠矢 同志社大学, 商学部, 准教授 (70774735)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | アルゴリズム取引 / 最適執行問題 / ボリュームライン / POV |
研究実績の概要 |
機関投資家が株式のような証券の大量売買(執行)を行う際、大量執行がゆえに一時的な需給の不均衡により価格が大きく変動してしまう、いわゆるマーケット(価格)インパクトリスクに対応するため、通常は大量の注文を小分けに分割し、特定の期日までに執行がおこなわれる。この分割執行戦略において、これまで多くの最適執行戦略についての議論がなされている。一方で、実務においては、わかりやすさのため、および市場において大量執行による価格の変動の影響を極力減らすため、VWAP(出来高加重平均価格)をターゲットとした、ヒストリカルな出来高(ボリュームライン)に沿った執行をすることがある。 本研究では、ボリュームラインに従う執行のクライアントへの説明の容易さ、および、取引市場への価格の影響力の低減を目的として、機関投資家が所与としたボリュームラインを、ある程度ターゲットとする戦略の遂行を制約としたなかで、最適な執行戦略の導出を試みた。即ち、制約が強いときには、ボリュームラインをターゲットとしてそれに従う戦略により執行をおこない、制約が最も弱い(制約がない)ときには、最適な執行戦略を用いる事になる。 ここから、VWAPをターゲットとした執行のペナルティが強くなるほど、最適性を犠牲にするため、執行によるコストが上昇する一方で、忠実にVWAPにトラッキングしているためトレーダーとしての評価はやや高くなる。マーケットインパクトが市場のボリュームに依存するときは、ボリュームを考えない最適執行戦略よりもボリュームを考慮に入れた最適執行戦略を考えることにより、マーケットインパクトコストが下がることが見込まれる。これにより、ボリュームラインにトラックするほど、マーケットインパクトによるコストは低下する一方で、最適な執行とはいい難くなることがわかる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
機関投資家の投資行動の最適性を調査したに留まり、この結果が市場の安定性にどのように寄与するのかについての完全なインプリケーションを与えるまでには至っていない。即ち本研究については、目的を達成するための方策を与えるという流れではなく、実現可能および考察可能である方策が、本研究の目的とどのように合致するのか、という逆の流れでおこなっており、目的との合致についてのインプリケーションが完全に詰められているとはいえない。 本研究の本来の大きな目的は、機関投資家の最適な投資行動そのものではなく、取引所外取引と取引所取引を機関投資家が用いる事による、市場の安定性についてであり、取引所外取引で行う取引のために取引所を用いることで、相場操縦の可能となり、これに対して考察をおこなうことである。そのため、機関投資家の取引所取引での大量執行によるマーケットインパクトリスクを低減するために、ディーラーと取引所外で相対取引を行う事が根底の考えとなり、取引所を用いて取引所外取引に流動性を与える主体は、ディーラーである。ただ、取引所取引において大量の執行をおこなう際に、ボリュームをトラックすることが現実にはよく行われることから、ディーラーがマーケットボリュームをトラックする目的および取引所において調達した流動性がどのように取引所外の取引価格に影響を与えるのか、等について考察を与える必要があるが、そこまでは詰めきれているとはいえない。
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今後の研究の推進方策 |
これまでは、所与としたボリュームラインをある程度ターゲットとした、最適な執行戦略の導出を試みた。今後は一般的な関数をターゲットとした戦略の導出、および確率的な挙動をターゲットとした戦略の導出尾を行う。これにより、より現実な状況下でボリュームをターゲットとした執行(ディーラーにとっては調達)について考察を与えることができるものと考えられる。また、このことが市場の安定性についてどのように寄与するのか、についての考察も与える必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
シミュレーションによる数値実験を行う以前に、理論的な枠組みを構築したため差額が生じた。今後は国外の制度面における情報を収集することも視野に入れ、国内外のデータを用いた数値解析により、構築した理論の妥当性の検証を行う予定である。
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